No.5122 (2022年06月25日発行) P.63
天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)
登録日: 2022-06-02
最終更新日: 2022-06-02
私は個人のTwitterアカウントを持っているが、先日次のようなツイートをした。「患者さんに治療選択をアドバイスするツリーをたまたま目にしてしまい、気分が暗くなってしまった……どのレスも善意かつ懸命なのはすごく伝わってくるのだけど、たぶん内容が古いまたは間違っている。だったらお前がやれよとお叱りを受けるかもしれないけど、間違った助言したら命にかかわるんだよ」。このツイートは原稿執筆時点で134件のリツイート、11万インプレッションを得ている。
Twitterの「ツリー」とは、ある投稿に対して一連のツイート(リプライ)が繋がって表示される機能をさす。この場合、患者さんの医療的な相談に対して、多くの患者さんが助言をしていた。患者さんがSNSで同じ経験をした患者さんから助言を得られれば心強いだろうし、患者さんが自身の経験をもとに他の患者さんの役に立ちたいという気持ちも尊いものである。しかし、治療選択に関わる助言だけは時に命に関わる選択に繋がるので、専門の医療者に助言を求めるべきであろう。
コロナ下で対面でのコミュニケーションの機会が減り、時間や場所を超えてコミュニケーションがとれるSNSの重要性が増した。私が運営に関わる患者会でも、対面での交流会が開催できなくなり、オンラインでの交流会を開催している。オンラインで交流会を開催すると、入院中であったり外出が難しかったりする患者さんも参加できるようになった。対面であれオンラインであれ、交流会でも治療選択については専門の医療者に相談するよう呼びかけている。
そうはいっても、手軽にアクセスできるSNSやネットから医療情報を得て、治療選択をしている患者さんは増えていると感じる。最近は、動画サイトでの情報を参考にしている患者さんも増えている。たとえば国立がん研究センターではYouTubeに公式チャンネルを設けていて、専門の医療者による講演や解説動画を多数掲載していて、とても参考になる。一方で動画サイトには、医療者ではない投稿者による(時には医療者による)科学的根拠が疑わしいと思われる医療情報の動画も多数掲載されていて、特に若い世代の患者さんは書籍や長い文章よりも、短い文章や短い動画から情報を得る傾向があると感じる。
医療者から対面で説明を受けることだけが情報を得る手段ではなくなっている中で、患者さんが自身の意向に基づいて最適な選択をするためにはどのような情報提供のあり方が指向されるべきか、現在はその過渡期にあると言えるのかもしれない。
天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[SNS][医療情報]