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【識者の眼】「末期がんという言葉」西 智弘

No.5122 (2022年06月25日発行) P.62

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2022-06-02

最終更新日: 2022-06-02

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「これからいらっしゃる患者さんです。お名前が○○さん、59歳男性、膵臓がんの末期の方で……」

医療者に限らず、救急隊や医療事務からもこのような申し送りを受けることがある。その際、「末期の方で」と告げるときの声に、憐憫というか「察してください」のニュアンスが含まれることが気になるのは私だけだろうか。

一般的に「末期がん」という言葉は、全身に転移したがんの状態を指すのだろうが、その定義はあいまいである。単にstage Ⅳの状態を指す場合もあれば、全身に転移巣が広がり衰弱が進んだ状態を指す場合もある。よって、一口に「末期がん」と言われても、その中には無症状で日常生活を送っている方もいれば、余命1週間以内で緩和ケア病棟に入院した方も含まれる。にもかかわらず、「末期」という言葉が放たれるとき、そこには「察してください=半ば諦め」が含まれてはいないだろうか。

「末期の患者で、できることはないのに医者が毎日診察する意味あるのですか?」

「末期の患者なのに、○○の薬投与する意味あるのですか?」

とは、医療者からしばしば言われる言葉だ。終末期だからといって周囲の諦める態度は、患者を孤独に追い込むものだ。ここでの諦める=抗がん治療を止める、ではない。「何をしてもどうせ意味はないのだから」という態度である。逆に、諦めない=抗がん治療を続ける、でもない。治療だけが私たちの提供できる手段ではない。

近代ホスピスの母、Cicely Saundersの言葉に

「あなたはあなたであるから重要です。それはあなたの人生の最後の時まで。私達はあなたが平安のうちに最期を迎えることができるだけでなく、最後まで生きることができるように、できる限りのことをさせていただきます(You matter because you are you. You matter to the last moment of your life,and we will do all we can not only to help you die peacefully,but live until you die.)」

がある。人が、尊厳をもって最期を迎えられるよう支援することが緩和ケアの役割である。生きている限り、そして亡くなってからもできることは山のようにある。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[緩和ケア][ホスピス]

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