No.5125 (2022年07月16日発行) P.63
小豆畑丈夫 (青燈会小豆畑病院理事長・病院長)
登録日: 2022-06-23
最終更新日: 2022-06-23
私が働く病院とその関連の高齢者施設では2022年6月1日をもって、患者さんとご家族の対面面会を全面的に開始しました(新型コロナ病棟を除く)。約2年ぶりの再開です。そのことによって、私の心に驚くような変化がありましたので、記させて頂きたいと思います。
私達医療者にとって、患者さんや家族の喜ぶ顔がこんなにも仕事に向きあう原動力になっていたのか……と、今更のように気づかされたのです。病気になった患者さんが回復して、家族と嬉しそうに話す顔、ほっとしたご家族の表情。長く施設にいらして、久しぶりにお孫さんに会ったときの、高齢利用者さん達の、急に生気を取り戻したような、涙を潤ませたつやつやした笑顔。そういう瞬間に立ち会うと、「医者になって良かったな」と、どこからともなく熱い感情がこみ上げてくるのです。新型コロナ対応を理由に、入院患者さんとご家族の面会をWeb面会に限定していたときには、決してないことでした。
そして、この変化は病院や施設で働く多くの医療従事者にも訪れたようです。なぜ私がそう思うかというと、病院(施設)全体がまるで生き返ったような変化を見せたからです。看護師や介護士が患者さんやご家族と話す声が病院に帰ってきました。面会がなかったときには、心電図モニターのアラーム音や、エレベーターのドアの開閉音ばかりが病棟内に響き、働くみんなもどこか事務的な表情をしていました。今は、ご家族の声に時折看護師達の笑い声が混じります。時には、ちょっと困ったご家族の対応に愚痴も混じったりします。「もう、しょうがないわねー」なんて。彼らの表情は、確かに人を看ているときの温かなものに変わりました。私はそれを見ていて、なにか嬉しくなりました。
私たちはこんなに大切なものを、面会禁止とすることで自ら手放してしまっていたのです。さらに、それに気づかないでいたことに恐怖さえ感じています。このまま、気づかないでいたら、私達医療者は医療の喜びを失ってしまっていたのではないのでしょうか?
(このテーマは次回、後編に続きます。)
小豆畑丈夫(青燈会小豆畑病院理事長・病院長)[医療の正義⑨]