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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場:不動産管理業の世界」岩﨑康孝

No.5132 (2022年09月03日発行) P.61

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-08-03

最終更新日: 2022-08-03

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診察で、不動産に関わる方には比較的頻繁に遭遇します。

実際に調べてみると、不動産業全体の従業員数は、日本の全従業員数の2〜3%ぐらいです(※1、医療従事者の5%※2に比べると半分程度)。ただし、このデータには、アパート等の不動産所有者は含まれていませんので、実際にはもう少し多いかもしれません。

今回焦点を当てるのは、アパートの管理を請け負っている管理業の方々です。アパートの所有者が自ら管理なさることもありますが、8割以上が不動産の管理を専門の業者に委託しています※3

業務の内容としては、空き部屋予防対策、賃貸人とのお金のやり取り、建物の管理等の仕事があります。

また、騒音、ゴミ出し等の居住者同士のトラブルの仲裁をすることも求められます。最近では、半導体需給の逼迫により給湯器が故障しても修理や入れ替えができず、お湯を使えない店子が続出しました。このほか、話題の「ゴミ屋敷」問題や、孤独死、夜逃げ、クレーマー等、他の職業の方であれば、1つでも遭遇すれば、メンタルを崩して受診することがあるような経験だと思います。

ところが、管理業の方は、それほど困った感じがありません。「打たれ強い」というよりは、どこか「達観している」という感があります。「できない事はできませんから」とおっしゃいます。確かに、住民トラブル等は問題解決というよりは、寄り添う姿勢を見せることが大切なのかもしれません。

お話をおうかがいしていると、「解決できる仕事」と「解決はできないが対応する仕事」の仕分けをきちんとしているなぁと思います。

時に転職や異動があります。ほとんどは不動産業の中で動きます。多くの方が宅建(宅地建物取引士資格)をお持ちなので、不動産管理ではなく売買の仲介部門に転職される方もいます。不動産管理会社は不動産仲介業を併せて営んでいることが多いため、内部で異動する場合もあります。市場としてみた場合、賃貸不動産は増加しており(2014年から2018年で約1.5倍に増加※4)、不動産業の中でも成長領域です。不動産管理をなさっている方の転職にはあまり障害がありません。

次回は、「ワンオペ」の世界をお送りします。

※1 法人企業統計調査.

※2 厚生労働省ホームページ:Ⅰ制度の概要及び基礎統計.

※3 一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会. https://www.chintaikanrishi.jp/about/ 

※4 経済産業省:不動産業ビジョン2030 参考資料集.

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[メンタルヘルス][労働市場]

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