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【識者の眼】「個別化医療において必須の診断キット、“コンパニオン診断薬”って何?」藤原康弘

No.5141 (2022年11月05日発行) P.63

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-10-17

最終更新日: 2022-10-17

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「コンパニオン診断薬(以下、CDx)って、なんのクスリ?」と読者は思われるかもしれない。医薬品は患者集団の有効性、安全性が統計的に評価されて承認されるものであるため、投与した患者に効果があるかは、実際に患者に薬を使ってみないと分からないことが多い。個別化医療の名の下に、個々の患者の有効性や安全性を予測できるようにとする、薬物療法のめざすべき方向性が認識されたのは、2000年代になってからである。実際に、2003年4月には慢性骨髄性白血病治療薬として分子標的薬のイマチニブが米国で薬事承認され、がん治療の概念が大きく変わった。以降、抗悪性腫瘍薬領域では、患者の治療効果がある程度予測できる、そのようなターゲット選択的な医薬品開発が主流となった。

そこに大きな役割を果たすのが、CDxである。これは、薬剤の有効性や安全性に関する患者集団を特定するための患者層別マーカー(バイオマーカー)を測定するものと定義される。2011年8月に米国食品医薬品局(FDA)が分子標的薬の添付文書にCDxを記載したことが端緒となり、日本でも様々な政府の医薬品開発戦略の中で、個別化医療の立役者としてCDxの同時開発がうたわれた。

2013年7月には、CDxに対する規制の考え方が厚生労働省から通知され、以降、本年9月末時点で、医薬品34製品に対し、CDxとして38製品が承認され、診療で利用されるに至った。一方、日本では健康保険や薬価制度との関係もあり、製品ごとに独立してCDxが開発されてきた結果、同じ適応を有する医薬品間でも、利用可能なCDxが異なることとなり、医療現場での混乱をまねくような状況も発生している。

そのような現状に対して、本年3月31日に厚労省から、医薬品横断的なCDxに関する通知が発出された。この通知に基づき、製品間での良好な判定一致率を示すエビデンスがある場合など、製薬企業からの提案に基づき、PMDAが評価を行い、妥当であれば、医薬品横断的なCDxを利用できる承認内容に変更するための薬事申請が製薬企業から行われることとなる。

PMDAでは、去る10月23日に日本肺癌学会と共催のワークショップを開催し、医薬品横断的なCDxの最初の候補として、非小細胞肺癌におけるEGFR-TKI、免疫チェックポイント阻害薬に関する議論を進めている。このように、今後も、各種学会と連携しながら医療実態に即した規制の課題解決をダイナミックに模索していきたい。診療現場からPMDAに来た人間の一人として、現場での円滑な医療の提供に資する視点を、薬事規制においても忘れてはならないと思っている。

※米国のVogelstein博士らがNature Biotechnology誌2006年8月号の総説(2006;24:985-95.)で使ったことで広く認知された用語。

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[CDx]

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