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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場:スタートアップの世界」岩﨑康孝

No.5146 (2022年12月10日発行) P.63

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-12-01

最終更新日: 2022-12-01

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日本では、「スタートアップ」(新しいアイデアで、急速な成長をめざす企業)が他の先進諸国に比べて足りないという趣旨の記事を見かけます。

「スタートアップ」という分類での公的な調査は見当たりませんが、既存の企業数に対する新規の事業開業数を比較すると、日本4%に対し、英国11%、米国9%でした(2018年※1)。実際に、新規の法人数は約14万社です(全国、2021年※2)。国として、スタートアップを促進するため様々な援助策を設けています※3。一方、国ではなく都市に着目すると、東京のスタートアップ企業を育む環境は国際的には10位前後におり、それほど悪いわけではなさそうです※4

スタートアップ企業の「廃業率」は諸説あり分かっていませんが、不安定な経営状況や組織等の状況が一定期間継続することは確かです。スタートアップでは高給より、テーマに興味があることや経験が得られることを重視して入社するためか、特に若い方は、あまり給与のことを気にしません。

臨床現場では一定の割合で、いわゆる「スタートアップ」で働いている人たちに遭遇します。業容は、IT、EC等の小売り、アパレル、流通、教育、AIを使った各種業務等、多岐にわたります。メンタルクリニックを受診するきっかけは、経営状況より組織や人事が安定しないことが多いです。

1つは、「新入社員」との関係があります。スタートアップでは常に「新人」が入ってきます。「新人」は通常、新卒でなく社会人です。上司として入社することもあります。それに伴い役割分担が変化します。さらに、自分に対する評価の問題が発生します。組織が小さいので、「新人」により全体の人間関係が大きく変わることがあります。「新人」がオーナーには気に入られたけれども、チームワークに悪影響を及ぼす人物である等はその典型です。

また、スタートアップでは得意な領域(例:技術開発、営業)に経営資源を集中し、人員も得意な領域で急速に増加します。経理、人事、総務の拡充が後回しになります。規模が大きくなると経理等の負担が増えます。これらの理由から、経営者でない限りは比較的短期間で転職する方が多くなります。

中には、同じようなメカニズムで、スタートアップ企業を転々とする方もいます。ただし、年齢、家族、自分の市場価値等から落ち着いていく方がほとんどです。いつまでも落ち着かない方もいますが、この分かれ道がどこなのかはよく分かりません。

次回は、「カフェの世界」についてお伝えします。


※1内閣府:日本経済2020-2021─感染症の危機から立ち上がる日本経済─.(2021年3月)

※2 東京商工リサーチ:2021年「全国新設法人動向」調査.

※3 経済産業省:スタートアップ支援策. https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startup/index.html

※4 JETRO:ビジネス短信. 米民間調査、2022年世界の都市別スタートアップ・エコシステム・ランキングを発表.

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[社会人の新人]経理、人事、総務の後回し]

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