医療事故調査制度は、2015年3月20日の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」取りまとめを経て、5月8日、厚生労働省令100号および医政局長通知(医政発0508第1号)が出され、同年10月1日から施行された。
医療法(医療事故調査制度)で規定された『医療事故』の定義は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、(かつ)当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」である。即ち、「医療に起因する」死亡要件と「予期しなかった」死亡要件の2つを共に満たすものである。
本制度創設当時、諫早医師会副会長の満岡渉氏が試算し、本誌4804号に発表した『医療事故』推計値は、年間130〜260件(11〜22件/月)である。この試算の基となった資料は、日本医療安全調査機構の「モデル事業」であり、当時、厚生労働省が試算に使用したものである。ただし、厚生労働省試算時と創設された医療事故調査制度とでは『医療事故』の定義が異なる。
厚生労働省は、定義の違いを認識していた。2016年4月12日、当時の塩崎恭久厚生労働大臣が閣議後会見で「当初の予想は医療事故情報収集等事業を前提としたときの数字で、今回の制度の対象範囲が決定される前に、大学病院等のハイリスクの病院を対象に試算したものであり、年間1300〜2000件という予想であった。試算時は、『医療に起因する』事故と、『予期しなかった』ということのどちらかに引っ掛かったら、カウントした。しかし、今度の制度は、両方を満たす場合のケースということなので、『オアとアンド』で、かなり狭くなっている」と説明している。本年2月8日に行われた意見交換会においても、厚生労働省担当官はこの「定義の違い」を認めている。
つまり、制度創設以前の厚生労働省の予測数値は、「医療に起因」又は(OR)「予期しなかった」死亡であり、年間1300〜2000件ということである。本制度の『医療事故』の定義は「医療に起因」かつ(AND)「予期しなかった」死亡である。満岡渉氏の数値が現実に近いのは当然であろう。2021年度の医療事故調査・支援センター報告件数は年間317件(26.4件/月)であり、決して少なくはないのである。「報告数が少ない」という意見があるが、それは医療事故調査制度を理解していないと言うべきであろう。
小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療事故][日本医療安全調査機構]