著: | 長谷部圭司(北浜法律事務所・外国法共同事業 医師・弁護士) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 168頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2017年09月13日 |
ISBN: | 978-4-7849-4343-2 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
■意思決定能力の低下した患者さんのインフォームドコンセントをめぐり,のちのち問題にならないための対応を解説。
■法律的に無駄な行動をとらず,過不足なく対応するための考え方を解説しています。
■事例解説は実際のケースをもとに再構成。よくあるパターンを集めました。
■医療安全,病院法務ご担当者にもおすすめです。
序 文
筆者はもともと医師免許を先に取得しました。現在も,診療・救急医療を続けています。これまでも,いろいろな治療を行い,そのたびに説明をしていました。特に,手術前には「儀式のように」患者さんとその家族を呼び出して手術の説明をしていました。ただ,「副作用の説明はこれで十分かな?」「他の治療法についてはどこまで話そうかな?」など,少し漠然とした疑問はありましたが,誰に,いつ,何を話せばよいのか,明確に考えることはありませんでした。
その後,ふとしたきっかけで法律の世界に足を踏み入れました。そして法律や判例をいろいろ学び,医師資格のみの時代に思い込んでいた常識がいろいろ崩されてしまいました。診療契約,informed consent,同意書の意味,患者の家族との関係等様々な点で,勘違いにより法律的には無駄な行動をとっていることがたくさんあることに気づきました。その中心が「informed consent」の理解不足によるものでした。現在の医療では,過剰対応であったり,一方で患者の権利侵害を行っていたりと,法律的に非常に問題のある行為を行っているのが現状です。特に,認知症患者さんに代表される意思無能力者(自分自身で理解し判断する能力がなくなっている人)への権利侵害については,かなり問題があると感じています。
意思能力を失った人の意見は無視され,その家族の意見でのみ動いている医療現場,それを正そうとしない司法,その結果として患者さんの権利がいつしか家族の権利になってしまっている現状があります。患者さんの治療等の方針決定は,家族の権利でしょうか?それがたとえ患者さん本人に苦痛になったとしても,家族の意見がすべてなのでしょうか?
そこで,本書では,日本の医療関係者全体にinformed consentを正しく理解して頂き,これによって患者の権利侵害が起こらないようにしていきたいと思っています。
本書に記載した提案は,今まで常識であると思われていたことを否定するものもあるなど,現状に対してはかなり挑戦的な内容となっていますが,これにより医療分野における患者の意思決定についての法律解釈の議論が大きく進むことを期待します。
最後に,本書は,筆者とともに悩み考えられた,たくさんの医療関係者の協力があって完成したものです。本書に記載された事例は,筆者が顧問を務める病院やクリニックの先生方や医療安全管理者,さらには関係のある医療機関の皆様からのご質問により集められた事例をもとに記載しており,回答や考え方についても,質問を受けるたびにお互いに検討しながら至った結果をもとに掲載しております。これらには,一人では気が付かなかった視点,体験したことがない事例,指示した当初は考えもつかなかった結果がたくさんあり,そのたびに筆者に付き合って一緒に検討して頂きました。まだまだ未熟な筆者と一緒に歩んで頂いていることに大変感謝しており,この場を借りてお礼申し上げます。
2017年8月吉日 医師・弁護士 長谷部圭司