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【識者の眼】「出生動向調査から浮かび上がる変革の必要性」小倉和也

No.5174 (2023年06月24日発行) P.62

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2023-06-13

最終更新日: 2023-06-13

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地域共生社会とは、「人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」とされている。ここでいう一人ひとりとは、病気や障害を持つ人はもちろん、元気な若い人も等しく意味するものとされる。その観点から見ると、昨年発表された第16回出生動向調査の結果は衝撃的だ1)

女性のライフコースの理想像は、男女ともに「仕事と子育ての両立」が初めて最多になった一方、女性の予想ライフコースとしては「非婚就業コース」が初めて最多となっている。他の結果においても、子育て世代の「仕事をしながら子供を育てたい」という暮らしと生きがいの理想が、今の文化や制度、経済状況の中で実現が難しく、諦めざるをえない様子が如実に示されている。

社会や価値観が変化する中で、新たな助け合いの形を作ることが地域共生社会の本質であると考えるなら、これは大きな変革を要する事態といえる。社会的な存在としての人間が、それぞれ生きがいを持って幸せに暮らすためには助け合いが必要だが、状況が常に変化する中、社会規範や制度も常に更新されなければならない2)。このことが適切になされ、少子高齢化が克服されることが、世代や立場を超えて社会全体の利益になることはもちろんだが、それ以前に、それぞれが望む生き方を実現できる社会であることが目的とされるべきであろう。

しかし、そのような変化に合わせた新しいしくみを作る、本来の意味でのイノベーションを生み出す力自体が、社会の高齢化とともに損なわれていることも、日本などを例に示されている3)。既に少子高齢化もしばらく続くことが避けられない。今起こさなければ、変革は日に日により困難になる。権威主義的な意思決定や、忖度による現状維持などが、文化や制度の変化を阻害し、社会の活力を損ない続けるならば、それはすべての人にとって不利益であるばかりでなく、世代を超えてこの社会に生きる人々の幸福追求を困難なものにしてしまうだろう。

地域共生社会といわず、そもそも民主主義社会の目的は、誰もが自分の意思で生き方を選び、それを生きがいとして追求できることではなかろうか。旧来の価値観を基盤とした社会制度を適切に改革できないことが、この国に生きる人々にとって何を意味するかを、出生動向調査は突きつけていると言える。

【文献】

1)国立社会保障・人口問題研究所:第16回出生動向基本調査 結果の概要.
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16gaiyo.pdf

2)Andrew Kemle:Philosophy Now公式サイト. Can You Be Both A Moral Rationalist & A Moral Sentimentalist?
https://philosophynow.org/issues/156/Can_You_Be_Both_A_Moral_Rationalist_and_A_Moral_Sentimentalist

3)The Economist公式サイト:It’s not just a fiscal fiasco:greying economies also innovate less.
https://www.economist.com/briefing/2023/05/30/its-not-just-a-fiscal-fiasco-greying-economies-also-innovate-less

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[地域共生社会][少子高齢化]

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