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【識者の眼】「インパクト評価を解きほぐす」坂井雄貴

No.5228 (2024年07月06日発行) P.59

坂井雄貴 (ほっちのロッヂの診療所院長)

登録日: 2024-06-17

最終更新日: 2024-06-17

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前稿(No.5223)は医療者の地域活動の評価方法としてインパクト評価について紹介したが、「実際にはどうするの?」ということが気になる方がいるだろう。今回はその実際について解きほぐしていきたい。

そもそもなぜプロジェクトには評価が必要なのだろうか? 目的の1つは説明責任(accountability)にある。たとえば人件費の高い医師が地域活動という直接的収益につながりにくい活動に取り組むとき、コストをかけるだけの価値があるかをステークホルダーに理解してもらうためには、活動の価値を示す必要があるだろう。一方で、診療も地域活動も広く地域の健康に関わる活動ととらえたときに、単にコストの面で考えるだけではこぼれ落ちてしまう価値が、間違いなく存在している。だからこそ、地域活動に関心を持つ医療者は、活動に対する評価の意識を持つ必要があるのだ。

それでは実際に「社会的インパクトを定量的・定性的に把握する」ためには何が必要だろうか? その実践のために、ロジックモデルの5つの要素を紐解いてみよう。①インプットとは、プロジェクトを実施するために投入される資源のことであり、簡単にいえば「ヒト・モノ・カネ」である。②アクティビティとは、プロジェクトで実際に行う活動であり、たとえば地域での健康教室や、マルシェでの血圧測定などである。③アウトプットとは、プロジェクトを実施することで直接生み出されたものであり、参加者数や売上、満足度などがある。④アウトカムは、アウトプットによりもたらされる効果であり、健康教室によって減塩に取り組む人が増えた、血圧高値が指摘され○名が病院を受診した、などがある。⑤インパクトとは、プロジェクトを実施することでもたらされる影響であり、生活習慣病に関する地域のヘルスリテラシーの向上、地域住民の生活習慣病の割合の減少などが挙げられる。

地域活動において注意したいことは、アクティビティそのものや、アウトプットに意識が終始してしまうケースが多いことだ。ロジックモデルを通して、インプットやアウトカムまでを意識して計画・評価をすることが重要である。また、実際のところ定量的な評価を行いやすいのはアウトカムまでであり、インパクトについては、組織やプロジェクトのゴールを基準として定性的な記述となることも多い。インパクトを含めた定量的評価の方法としては、費用面に焦点を当てた社会的投資収益分析(social return on investment:SROI)という方法もあるが、これは成書を参考にしてほしい。ただし金銭的な評価のみに終始してしまえば質的な評価が抜け落ちやすく、そもそもロジックモデル自体が因果関係を前提としており、そのプロセスで生じたナラティブや偶発的な結果が無視されてしまうことの功罪もある。

ロジックモデルを作成することは、質的・量的なものを含めて様々なステークホルダーと共通の理解基盤を持つことが大きな目的となる。仮に量的な成果を示すことが難しくても、プロジェクトのリソースやビジョンが明示されることで理解を得やすくなるだろう。インパクト評価については私もトライアンドエラーの最中であり、日々様々なプロジェクトに取り組む医療者の皆さんとともに、学び深めていけたらと思う。

坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][インパクト評価][ロジックモデル]

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