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【識者の眼】「今秋、厚労省の政策によって未曾有のジェネリック不足に」坂巻弘之

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2024-07-03

最終更新日: 2024-07-03

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薬不足が続いている。昨年(2023年)夏頃から様々な感染症が拡大し、鎮咳薬、去痰薬、解熱鎮痛薬などの不足が特に大きな問題となった。鎮咳・去痰薬については、昨年11月に厚生労働大臣が急遽、業界に増産要請を行い、一部企業が増産しているが、現場での不足は続いている。

一方、後発品の多くで限定出荷が継続している背景には、品質および製造プロセスの問題が中心にあることが明らかになっている。そこで、厚生労働省は本年3月に日本製薬団体連合会に対して「品質確保・信頼性確保のためのさらなる自主点検の実施」を指示した。対象企業は約200社で、本年10月までに実施・終了する予定である。より厳しい基準での点検により、問題の出発点である品質および製造問題が洗い出され、改善への取り組みにつながることが期待されるが、一方で、新たな問題が見つかることで限定出荷が増加することも懸念される。

10月には、その他にも後発品に関わる新たな対応が始まる。その1つが長期収載品の選定療養化である。これは、後発品使用促進の一環として、患者が医療上の必要性がないにもかかわらず、後発品ではなく長期収載品を選択した場合に、両者の価格差の一部を患者が負担する仕組みである。これにより後発品への需要が高まると推測される。しかし、上述の通り、肝心の後発品の供給体制の問題は10月までに解決されない。さらに9月末以降、薬価削除プロセスを簡素化し、後発品がより撤退しやすくなることも決定されている。対象製品は、過去5年間の平均シェアが3%未満の製品であるが、いくつもの製品が市場撤退することになれば、供給不足が加速することになる。

後発品の需給に大きな影響をおよぼす自主点検、選定療養、薬価削除が10月、ほぼ同時に終了あるいは開始される。厚労省は、これらによって後発品の需要がどの程度拡大するのか、需要変化や他社の撤退に対応できる供給力があるのかどうかのシミュレーションを行わないまま、これらの仕組み導入を進めている。他方、後発品業界の再編など、供給不足への効果もないことに厚労省は無駄に議論の時間を費やしている。その間に事態はひっ迫しかねない。10月以降、未曾有のジェネリック不足となることが杞憂に終わることを願うばかりである。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[ジェネリック供給不安

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