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【識者の眼】「他にいないから選ばれる─2nd best?」野村幸世

No.5234 (2024年08月17日発行) P.67

野村幸世 (星薬科大学医療薬学教授)

登録日: 2024-08-05

最終更新日: 2024-08-05

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アメリカ大統領選挙の候補者として現大統領のバイデン氏が撤退を表明し、現副大統領のハリス氏が民主党の候補となるであろうことは皆様も報道を通じてご存知のことと思う。このことが決まってから間もなく、報道はパリオリンピックのことに集中してしまったので、情報が少し入りにくくなっているが、ハリス氏はなかなかいい雰囲気と表情で演説を行っているようにお見受けした。女性で民族的にもマイノリティーのアメリカ大統領が生まれることを望むが、このような、トップが何かの理由で退いたときに、2番目に位置した女性が躍進することはときどきお見受けすることのように思う。

その例の1つとして、昨年退任したが、ニュージーランドのアーダーン元首相は皆様ご存知なのではないだろうか。アーダーン氏は2017年、労働党の副党首になるが、これも、当時の副党首が政界引退を表明したためであり、さらに、支持率低迷を理由に党首が辞任したことにより、アーダーン氏が党首に繰り上がる形となった。アーダーン氏は2018年に妊娠、出産をされており、世界で初めて首相在任中に産休を取得した政治家になった。

私も振り返るに、「いつもの人がいなくて仕方なく」とか、「他にいなかったから」というようなやや消極的な理由でノミネートされることが多かったような気がする。その結果、任務が果たせなかったか、というとそのようなことはない。たとえば、わが国の多くの施設で腹腔鏡下胃切除術がまだほとんど成功していない黎明期、私が所属した科で、いつも決まった先輩がトライしつつも途中で開腹する、というようなことが行われていた時期に、たまたまいつものメンバーが他の手術で腹腔鏡下胃切除術のトライができなくなった。そのため、私と私の同級生が施行し、当科で初めて腹腔鏡下胃切除術を完遂したことがある。たまたま同級生同士で気が合っていたのかもしれず、別にこれを自慢しようというのではない。このようなときに、「仕方がなく」行った人選という前の「仕方があった」ときの人選に対する反省というのがなされていないように思う。

女性はやはり、まだまだ「仕方なく」選ばれることが多いと感じている。そうではなく、また、数合わせでもなく、女性が積極的に評価され、登用される時代が来ることを望んでいる。そのためには、「仕方なく」選んだ人が何の問題もなく任務を遂行できたときに、よかったと思うだけではなく、「仕方なく」しかその人を選ばなかった自分の評価基準に対する反省も必要なのではないか。

野村幸世(星薬科大学医療薬学教授)[ハリス副大統領][アーダーン元首相]

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