美容医療は近年、治療の幅が広がり心理的ハードルも低くなったことにより、需要が高まってきている。それに伴い、美容医療を提供する医師、医療機関も急速に増加し、トラブルも増えている。消費生活センターなどに寄せられた相談件数は、2023年度は6千件を超え、5年間で3倍以上に増加した。このため厚生労働省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」を発足させ、美容医療の課題や対策についての議論が行われた。
報告されたトラブルでは、合併症など医療の内容そのものとクリニック自体の契約の問題や不十分な対応など様々であった。たとえば、美顔の治療を希望して行ってみたら、希望していなかったのにもかかわらず強引な勧誘で勧められるがまま、いつの間にか手術を受けることになってしまった。帰宅したら出血をしていて相談したけれども十分に対応してもらえなかったといった例や個室に長時間監禁されて契約させられたという例も報告された。
このようなトラブルが起きる背景の1つは医師の質の問題がある。美容医療は形成外科や皮膚科などが近いが、最近は美容医療機関も増え、基本領域のトレーニングをしないで、初期研修だけですぐ現場に出ていく例もある。保険診療にかかわる期間が短く、医師としての経験が十分でない可能性があり、特にモラルにかけた診療が問題となる。自由診療は監視や規制が働きにくく、標準的な医療の内容やレベルが必ずしも明確でない。保険医療の場合、原則的には承認品しか使えないが、自由診療ではそのような管理は及ばない。
また、クリニックの経営方針の問題も大きい。医師ではなくカウンセラーと称する人が診断や治療方針を決めるなど無資格診療が疑われるケースもあった。さらには、広告宣伝にも課題があり、ガイドラインを遵守していないものやSNSなど正しい情報の選別が困難なものによって、健全でないクリニックに誘導される場合もある。患者も、いつの間にか高額な契約になったり、望んでいない治療や即日の手術を勧められたりした場合はその場で決めないことも必要になる。
「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書では医療機関に対し、安全管理を適切に行っているかどうか、定期的に都道府県などへの報告を求めること、また美容医療の質を高めるために、関係する学会で法令の明確な解釈や標準的な治療内容、問題発生時の対応などについて盛り込んだ「ガイドライン」を策定するべきだとした。これらに実効性を持たせるためには、厚生労働省や関連機関の今後のさらなる活動が重要になる。美容医療には安全で効果的な治療も多く、大切な医療の一分野である。医療者には国民に健全な美容医療を届ける責務がある。
武田 啓(北里大学医学部形成外科・美容外科学主任教授)[美容医療][検討会][報告書]