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【識者の眼】「令和時代の学会運営〜DE&I(Diversity,Equity&Inclusion)の視点から」河野恵美子

河野恵美子 (大阪医科薬科大学一般・消化器外科)

登録日: 2025-01-10

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自民党総裁選2024のポスターを覚えているだろうか。

田中角栄、小泉純一郎、安倍晋三が目立って大きく、歴代総裁がズラリと並んだ写真の真ん中に、「時代は『誰』を求めるのか? THE MATCH」と書かれたインパクトのあるポスターである。昭和の時代にこのポスターを見ていたら、違和感すら覚えなかったかもしれない。しかし時代は令和である。テレビ番組で若いタレントが「おじさんの詰め合わせって感じがする」と率直な印象を語り、この発言がSNSを中心に大炎上した。

先日、ある学会の評議員会に参加した。理事たちがズラリと壇上で並んで座っているのを見て、例のポスターを思い出した。単に男性というだけでなく50代以上の教授(現職もしくは歴任)と偏った属性で占められている。では、会員に多様な人材がいないかと言えばそんなことはない。女性や若者はもちろん、50代以上の男性であっても、市中病院やクリニックで活躍している人材、医療経済や政策に造詣が深い人材、イノベーション人材など、多様な人材がいる。

しかし、意思決定層が共有する「理想とするリーダー像」があり、そのリーダー像に沿ってキャリアを踏襲している人が重職に登用されるという構造になっているため、多様な人材が活かされているとは言い難い。壇上の様相はまさに、インクルージョンの欠如を象徴していた。同じ視点を持つ人間がどれだけ集まっても、視界は広がらないし、盲点は盲点のままである。ここに重大な落とし穴がある。

医学生や研修医の外科志望者が減少しているが、有効な一手が今まで打てなかったのも同質性の弊害ではないかと思うことがある。「学会の発展のために将来構想を立案・実施する」ことを任務とする将来構想委員会に女性や次世代を担う若手がいないのは、逆に学会の発展を妨げている気がしてならない。もちろん委員一人ひとりは非常に優秀であり、真剣に将来を考えて議論しているだろう。しかし、24時間365日外科診療に邁進してきた昭和の外科医だけで将来構想を議論したところで、職業観・家庭観が異なる令和の若者の理想を内包しうるような、時代にあった改革ができるのであろうか。委員たちがフレッシュな若手外科医であった昭和末期〜平成にかけての時代背景を考えてみてほしい。ビジネスマンへ向けた「24時間戦えますか」というCMキャッチコピーが流行語に選ばれた時代である。今なら「24時間働かせるな!」と炎上必至である。

令和の時代の外科は多様な視点を取り入れ、一人ひとりが持てる能力・スキルを最大限発揮し、すべての外科医が活躍できるフィールドへと変革していくことが求められている。どんな時代であっても変化に対応できなければ生き残ることはできない。昭和的価値観をアップデートし、多様な人材を重職に登用することが、令和の時代にふさわしい学会運営と考える。

河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[多様性][公平性][包括性]

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