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【識者の眼】「地域医療構想と日本版ホスピタリスト」田妻 進

田妻 進 (JR広島病院理事長・病院長、日本病院総合診療医学会理事長)

登録日: 2025-01-21

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『病院が壊れる?』との衝撃的な見出しが一部メディアの表紙を飾った“地域医療構想”という社会的テーマが伝えられた2019年、全国各地で調整会議が開催されて、各地域の公的医療機関の厳しい運営状況の話題に日本は騒然となりました。その直後に発生したコロナ禍によって議論が下火となっていましたが、その間も各医療機関の効率的運用の御旗のもと、病床ダウンサイジングを骨子とした統合事案が着実に進み、先ごろ新たに地域医療構想が2040年問題に絡めて再び注目されています。

さて公的医療機関の経営指標が、多くの場合、芳しくない状況をどうとらえるべきなのでしょうか。前述の業界紙が紹介した累積欠損金一覧は批判的な論調を誘発させましたが、元来営利を目的としない医療という分野に収益性を求めることは、はたして妥当なのでしょうか。

DPCなる仕組み(手挙げ制とはいえ)を導入して効率性重視を推進する現行の制度のもとで、はたして損益分岐をクリアする手法が成り立つのか、合理性の観点で疑問を抱く向きも少なくない中、多くの医療機関が収支を強く意識した運営を余儀なくされています。とはいえ、私たち医療者は「医療者サイドの事情で展開する医療」を厳に慎しみ、誠実に「受療者サイドに立つ医療」に努めることを大切にしたいものです。

健全な経営管理と倫理的・道義的な全人的医療を両立できるのか、この難題を紐解く1つの合理的な提案として“ホスピタリスト”の投入が挙げられます。病院運営は金額ベースでおおむね外来1に対して入院2の割合が一般的(?)でしたが、人口動向の観点から外来診療は縮小方向にあり、病院の使命は救急を含めた急性期医療に集約される傾向が強まっています。すなわち、入院診療・病棟運用が健全な病院運営の鍵を握る傾向が鮮明になりつつあり、地域医療構想における質的量的視点として病床機能の見直しとダウンサイジングが論点となっています。

DPCを前提に急性期医療を展開して収益性に配慮した運営を実現するには、医療分担制の徹底が求められます。高度急性期を担う高度技能医とポストアキュートを担うホスピタリストの連携・役割分担により、診療の質を維持しつつ受療者の満足度を保ち、効率的な病棟運用(シームレスな院内病床機能活用)を展開することで、ハイレベルな経営管理指標が理論的には期待できます。

ホスピタリスト先進国の米国では、2週間を1クールとする病棟専従勤務体制(次の2週間は休暇)などが彼らの良質なワークライフバランスを可能にしています。様々な出自の専門医が外来診療は行わず入院診療(病棟専従)に特化してポストアキュートを担う仕組みは、合理的で費用効率も高く処遇も良好で、彼らの組織SHM(society of hospital medicine)の入会者は5万人前後まで増加しています。

翻って日本でそのまま通用する手法なのかは現時点では不透明ですが、少なくとも高度急性期を担う地域基幹メガホスピタルでは存在意義が期待されるところです。ただし日本の医療制度に適した“日本版ホスピタリスト”の位置づけを明確にして、そのスキルと役割を適切に活用することが肝要です。

地域医療構想の国民的議論が高まる中、限られた人的資源をいかに有効活用して現代社会の課題を克服するのか、過去に例のないドラスティックなチャレンジが今のVUCAの時代に求められているのではないでしょうか。

田妻 進(JR広島病院理事長・病院長、日本病院総合診療医学会理事長)[地域医療構想][ホスピタリスト]

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