まだ記憶に新しいところですが、2024年元日に発生した能登半島地震は、多くの地域に大きな被害をもたらしました。私はNGOピースウィンズ・ジャパンの「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」のリーダーとして派遣され、被災地での支援活動を行いました。
特に被害の大きかった自治体の1つである珠洲市で、1月2日より支援活動を開始した際に痛感したのは、被災した地域の行政職員が直面する大きな困難でした。地方自治体の職員もまた被災者であり、家や家族を失った悲しみの中、限られた人員で膨大な業務を遂行する必要があります。その負担の大きさを目の当たりにし、地方自治体を支援する新たな体制の必要性を強く感じました。
日本では、災害時の医療支援において厚生労働省が主導する災害派遣医療チーム(disaster medical assistance team:DMAT)が重要な役割をはたしています。私自身もDMAT隊員ですが、医師、看護師、業務調整員で構成され、大規模災害時に迅速に現場に入り、現地の医療体制を支えています。DMATは阪神・淡路大震災を契機に国主導で整備され、現在では被災病院や保健医療・福祉分野の行政支援としてもその成功を収めています。DMATの活躍は災害時の迅速な対応における重要な柱となっていますが、災害対応は医療に限られるものではありません。
そこで、DMATの成功をふまえ、行政支援に特化した「disaster government assistance team(DGAT)」の設立を提案します。DGATは、災害対応の経験を持つ官民の専門家で構成され、被災した地方自治体を支援することを目的としています。このチームは、地方自治体の負担を軽減し、現地のイニシアチブを尊重しつつ、効果的な支援を提供することをめざします。また、ITツールを活用することで、効率的な情報共有や意思決定を支援し、迅速な対応が可能となるでしょう。
現在、政府では防災庁の設立が議論されています。この防災庁がDGATのような専門チームを組織する役割を担うことで、災害対応能力のさらなる強化が期待されます。DGATの設立により、災害時における地方自治体の負担が軽減され、迅速かつ効果的な支援体制が実現すると考えます。
稲葉基高(ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)[災害支援][disaster government assistance team]