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【識者の眼】「SNSから見える今どきの医師の本音と未来へのヒント〜勉強してもメリットないのでやる気がしません」三澤園子

三澤園子 (千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学准教授)

登録日: 2025-01-23

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私のSNSに実際に寄せられた言葉から、今どきの医師の本音とその背景、今後について考察します。

タイトルにある言葉(若干改変)を若手医師からもらったとき、一瞬、ギョッとしました。SNSだから極端な人もいるのかなと最初は思いましたが、似たような言葉を、その後も何度も頂きました。「医師はなぜ勉強するのか?」この問いへの答えが、世代によって大きく異なる時代が来るとは、10年前には想像もしていませんでした。その大きな転換点の1つとなったのが「働き方改革」であると、私は考えています。

働き方改革が進められる中で、医師の自己学習の一部は「自己研鑽=どれだけ残って勉強しても残業代は払いません」と整理されました。病院の収益構造上も、社会通念上も、自己学習のすべてに残業代を支払うことは、適切とは言いにくく、このような整理にならざるをえなかったと思われます。しかし、この整理が医師たちの学びに対する意識に与えた影響は、小さくないように感じています。

医師たちはこれまで、金銭の見返りをあまり考えることなく、「優れた医師になりたい」「患者さんの役に立ちたい」という社会規範に基づき勉強をしていたように思います。もちろんその背景には、労働時間管理という概念すらほぼなかったこと、収入についての不安が大きくなかったこともあったかもしれません。しかし、労働時間管理と残業代という枠組みが、自己学習にも持ち込まれたことで、医師の学習に対する「アンダーマイニング効果」が生じた可能性があります。

さらに、高齢化と医療の高度化に伴う医療費の増大、そして、それを支える生産年齢人口の減少は、医師の報酬体系にも影響を及ぼしつつあります。将来の収入への不安を感じる医師が増えています。その変化の中で、公的保険のもとでの公平性、たとえば、研修医と専門医の再診料が同じ、学位の有無と給与は多くの場合相関しないという現行の制度が、スキルアップに対するモチベーションを減少させている可能性もあります。

一方で、現在は「VUCA(不確実で変化の激しい時代)」と呼ばれる環境下にあり、このような時代を生き抜くための最大の資産は、自身の知識、経験、そしてスキルです。さらに、医学の進歩は急速に加速しています。医学知識の倍加速度は、1950年には50年、1980年には7年、2020年には73日とも言われています1)。これほど速い進化の中では、今まで以上に学び続けなければ、現場で第一線を保つことは難しくなりつつあります。そして、高度かつ先進的な医療を提供できる人材への需要が衰えることはありません。

世代間の価値観や考え方の相違が大きくなっています。若手医師には、ぜひ広い視点を持ちながら、自分への投資を続けて頂きたいと願っています。同時に、中堅〜シニア世代には、若手医師の不安や課題に寄り添い、彼らのモチベーションを高める支援を行うことが求められているように思います。

【文献】

1) Densen P:Trans Am Clin Climatol Assoc. 2011;122:48-58.

三澤園子(千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学准教授)[働き方改革][自己研鑽][SNS]

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