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【識者の眼】「地方から医師偏在対策を考える」小野 剛

小野 剛 (市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)

登録日: 2025-02-13

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私は少子高齢化と人口減少が先行して進む地方の中山間地域の中小病院で29年間院長として勤務してきた。着任当初からの課題は「医師不足」であり、医師確保のため頻繁に地元大学へ足を運んだ記憶がよみがえってくる。ここ数年は地域住民の高齢化と人口減少が加速したことと、ベテラン医師の加入で相対的に「医師不足」はやや解消した感がある。

2024年12月に厚生労働省は「医師偏在の是正に向けた総合的対策パッケージ」を公表した。基本的考え方を、①経済的インセンティブ、地域の医療機関の支えあい、医師養成過程を通じた取り組みを組み合わせた総合的対策、②中堅・シニア世代を含むすべての世代の医師へのアプローチ、③支援が必要な地域を明確にした上での従来のへき地対策を超えた取組、として具体的取り組みが提示された。

内容を見ると速効性はあまりないと思われるが、方向性が示されたことは意義深いと考える。地域にはいろいろな事情もあり状況は様々で、今後は地域の実情を勘案した対策を進めて頂きたいと考えている。

地方の医師不足地域で活躍を期待されるのは「総合診療マインドを持った医師」である。地域医療の現場では、医療ニーズだけでなく介護や福祉ニーズを併せ持つとともに、慢性疾患を中心に多疾患併存高齢患者が多いことを実感する。また、介護・福祉分野の多職種との連携、地域全体とのかかわりが重要である。「ひとと地域をまるごと診る」ことができる医師の育成は高齢化が進む今後の日本においては重要なポイントと考える。

新専門医制度が始まって7年が経過し、総合診療専門医も基本領域のひとつになったものの専攻医数は伸び悩んでいる。そのような状況の中で領域別専門医の資格を持った中堅・シニア世代の医師が、一定のリカレント教育を受け総合診療マインドを持ち、地域で活躍してくれることに期待している。これまでの経験を活かしながら、専門医マインド(50%)と総合医マインド(50%)を併せ持ったハイブリッド医師として医師不足地域で活躍してもらえれば、医師にとっても、地域にとっても、また国にとっても有益ではないかと考える。

地域医療を持続可能なものにしていくためには、1人の赤ひげ医師やスーパードクターに頼る時代ではなく、多様な医師が多様な形でかかわる仕組みが必要である。また、2040年を見据え、高齢化が進む地方の中小病院で若い医師が一定期間(6カ月程度)地域医療を経験し循環するシステムの構築も有用と考える。1961年に国民皆保険制度が制定された当時、「保険あって医療なし」の地域解消のため全国に国保診療施設がつくられた。それから64年が経過した今、地方では「保険あって医療なし」の状況になりかねない地域も出てくるのではないかと危惧している。「医療資源の乏しい地域で、最も困難に直面している人々に医療を届け続ける」という思いを忘れず地域医療に携わりたい。

小野 剛(市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)[医師偏在対策総合診療医

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