松村真司 (松村医院院長)
登録日: 2025-02-14
最終更新日: 2025-02-14
『東京物語』。小津安二郎の1953年公開の名作である。この作品には、尾道に住む老夫婦が、都内で診療所を営む長男を訪ねたものの、彼が休日に往診に呼ばれ、せっかく上京した両親の面倒を十分にみられないという場面が描かれている。
父の代から職住一致の診療所で育った私も、幼い頃に同じような経験を幾度となくした。そもそも家族で外出する機会はほとんどなく、年に一度の家族旅行に出かけた際にも、宿泊先にかかってきた電話で予定を変更し、一家そろって帰京した記憶がある。そして当時、町医者とはそういうものだと、ごく自然に思っていた。
時代は変わった。しかし、『東京物語』に登場する蒸気機関車やちゃぶ台のように、町医者のこのような役割も完全に過去の遺物となっただろうか。かかりつけ医機能報告制度において、時間外対応が第2号機能として明記されたように、今もなお『かかりつけ医』たる医師に期待されている機能なのだろうか。しかしそれは、もはや個々の医師が担うものではなく、システムで対応すべきものへと変わりつつある。昨今の『働き方改革』は、さらにこの流れを推し進めるだろう。
さらに、COVID-19パンデミック以降、医療従事者のバーンアウトへの関心が高まっているのは以前の本稿(No.5193)でも述べた。当初バーンアウトは勤務医の課題として注目されていたが、近年ではプライマリ・ケア領域においても知見が集積しつつある1)2)。もちろん、労働時間管理や労働環境の整備がバーンアウト対策の中心であることは言うまでもない。ただ、それと並行して同様の環境下にある医師同士が相互に支え合う仕組みを構築することも重要ではないだろうか。
その1つとして、ピア・サポート体制の確立が挙げられる3)。ピア・サポートとは障害や依存症などの当事者同士が、同じ背景を持つ仲間(ピア)として、互いに支援を行う仕組みのことである。このような考え方は、孤立しがちな診療所の医師にとっても、特に意義深い。長年行われてきた地域単位での勉強会などの活動は、知識獲得やネットワーキングの場であると同時に、ピア・サポートの役割もはたしてきたのではないだろうか。そして、こうした活動は今後、医師のバーンアウト対策としてその重要性を増していくだろう。
かかりつけ医機能報告制度が始まる2025年こそ、地域に根ざしたこのような活動に改めて目を向け、その価値を再認識していきたい。
【文献】
1)Goldberg DG, et al:J Gen Intern Med. 2024;39(8):1317-23.
2)Kuriyama A, et al:Asian J Psychiatr. 2022;68:102956.
3)Shapiro J, et al:Acad Med. 2016;91(9):1200-4.
松村真司(松村医院院長)[かかりつけ医機能報告制度][燃え尽き症候群]