株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「改革の名のもと、どこの国も職員を減らしてみたり増やしてみたり」小野俊介

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)

登録日: 2025-04-08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

米国のトランプ政権が「厚生省の職員数を1万人削減する」と宣言し、騒ぎになっている。FDAも1万8000人程度の職員のうち3500人(2割)を削減するとのこと。

確かにすごい削減数である。「我が社の薬の審査担当者が辞めた。やっと懐柔したのに……」などの混乱は起きよう。しかし、お役所の機能はそう簡単には壊れない。どんなにすばらしい行政改革が実施されても、実態はさほど改善しないのと表裏である。少数の職員しかいなければ少数のシステムが機能しはじめる。それがお役所。

FDAの職員数については面白い歴史がある。1970年代、米国では審査に平均2年を要していた。「時間がかかり過ぎ」という批判から1980年代には審査官を増員。が、審査時間は短くなるどころか、3年弱と逆に長くなった。

様々な時代背景があったのだが、「役人が増えるほど仕事の量が増える」という、いわゆるパーキンソンの法則が成立したようにも見える。

新薬の承認審査は、提出された資料を読んでコメントをつける仕事であり、良くも悪くも「神事」である。審査官の学識、倫理観、仕事への情熱は外からは観察できないし、審査の善し悪しを識別することは不可能。「目方(体重)で男が売れるなら……」と歌ったのはフーテンの寅さんだが、審査官にとっては書いたコメントの数・量が唯一客観的な人事上の評価指標かもしれぬ。

状況が激変したのは1992年。業を煮やした製薬業界の要望を受けて、企業が払う申請手数料で審査官を増員することを認める法律(PDUFA)が成立した。むろん増員の条件は「約束した審査時間を厳守すること」。

PDUFA成立後、審査時間は期待どおり劇的に短くなった。審査官の数は増えたのだが、彼らはなぜか急に「要領よく」仕事をする術を身につけたらしい。クビがかかると人間は変わる。

ちなみに「締め切り厳守の手抜き審査で安全性の確認が甘くなり、危ない新薬が承認されたのでは?」という懸念も当然に高まった。それを肯定・否定する両方の分析結果が出たが、白黒つけることは困難で、決着がつかぬまま現在に至る。

行政は「神事」としての性格を有する。医薬品行政はその最たるもの。それを直視したくない気持ちもわかるが、そこから目をそらすと行政評価は単なるお手盛りになる。「神事」を見て見ぬふりする今の状況は、薄っぺらい政治家・役人にとってはとてもありがたいはず。「よし、私が改革してやる!」「次は私が!」というドタバタを容易かつ永遠に続けられるのだから。

改革の美名のもと、職員や組織を増やしたり減らしたり。あ、今朝(2025年4月1日)の日本のニュースでも……。

小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[行政改革][医薬品

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top