最近の外来の悩みは、処方薬で風邪薬のPL顆粒を要望する患者さんが来ることだ。衣笠病院では、昨今のPL顆粒の流通が悪いことから、電子カルテの薬剤マスターからPL顆粒が削除された。このためPL顆粒を処方することができない。PL顆粒をほしがる患者さんには、「薬局でパイロン®PLを買って」と伝えている。
ところが納得されない患者さんがときどきいる。患者さんは「処方薬のPL顆粒のほうがよく効く」と言ってくる。「他の開業医では処方してくれたのに、なんでここでは処方してくれないのか?」とせまる。どこの外来でもこうしたPL顆粒信者の患者さんがいる。先日の患者さんは「処方薬のPL顆粒のあの『ツーンとした感じ』が街の薬局のPL顆粒にはない」とまで言う。
このようにOTC医薬品があるのに、処方薬もある医療用医薬品を「OTC類似薬」と呼び、なんと7000種類もあるという。金額ベースでみると、トップは漢方・生薬、次が消化器官用薬、外皮用薬、アレルギー用薬の順だ。OTC類似薬の市場規模は1兆円という。
これまで厚生労働省は薬剤給付費の適正化の観点から、OTC類似薬の保険による給付範囲をすこしずつ狭めてきた。2012年には、単なる栄養補給目的のビタミン剤の投与を保険給付から外した。2014年には、イソジン®ガーグルのようなうがい薬での単体処方を外した。2016年には、湿布薬を1処方で70枚に制限し、最近この処方上限が63枚に減らされた。2018年には、ヒルドイド®のような皮膚保湿剤の処方も外されたが、アトピー性皮膚炎などの治療目的では処方することができる。
OTC類似薬は、保険給付の範囲がだんだんと狭くなっている。ただ冒頭に述べたように、OTC類似薬は依然として患者さんには人気だ。「安くて効果があるのでやっぱり処方薬はすごい」ということになる。「PL顆粒は街の薬局で買うほうが安く、効き目も同じですよ」と言っても聞き入れない。「PL顆粒を出してくれない医者は悪い医者」というレッテルを貼られる。これは「後発品(ゾロ)を出す医者は悪い医者」という、かつての後発品と先発品の論争とよく似ている。私は後発品推進派だったので、仲間の医者からは「後発品を出すなんて医者とは言えない。プライドがないのか?」とまで言われたことがある。
いまやOTC医薬品推進派の私は「医者の風上にも置けない」と言われかねない。でも時代は変わった。セルフメディケーションの時代である。軽微な風邪やすり傷のような疾患では、OTC医薬品を活用する時代だ。保険財政を維持する上でも欠かせない。高額療養費の自己負担分を上げる前にすることがまだある。まずはPL顆粒の保険適応を制限するか、止めるべきだ。
武藤正樹(社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)[OTC類似薬][保険適応][保険財政]