草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2025-06-04
最終更新日: 2025-06-03
私の子どもが大学受験の前後にあるためか、最近感じることがある。医師というキャリアが若い彼らにとってどう見えているのか。また、私たち現役の医師が彼らのキャリアをどう考えるかという点である。本稿では少し、俯瞰的にこのテーマを扱ってみたい。
北海道において、地域医療対策協議会のメンバーとして様々な議論に参画する中、〈地域枠〉の議論の重みが益々増してきている。というのも、医師の地域偏在に対する打つ手がほとんどなく、〈地域枠〉で入学した若手医師の義務年限としての地域勤務が最も大きな効果をもたらしているからだ。もちろん、大学からの地方への医師派遣はベテランや中堅医師の派遣という意味で大きな価値があるが、30年前のような存在感は失っている。
となると、北海道における議論で中心となるのは、〈地域枠〉の医師の診療科選択である。実際、病理や放射線科を選択する医師には、地方で適切なポジションを提供できず特例的な対応をせざるをえないケースはあるが、幸い6〜7割は内科、小児科、外科、総合診療科などを選択してくれる。いわゆる医師少数地域の医療機関に勤務する彼らの存在は大変重要であり、地域にとって1つの救いであろう。ただ、その数は北海道で養成される三百数十名の全医師の中の30名にすぎず、10%弱である事実は否定できない。
その一方で、医学部入学前の時点で〈地域枠〉入試の選択について判断が求められる受験生のことを考えてみる。親が医師として地域勤務をしてきた場合はよいが、そうでない場合には〈地域枠〉が持つ意味合いを正確に理解するのはかなり難しいだろう。医師としての3〜9年目という成長にとって重要な時期に勤務する医療機関の制約があることが、診療科選択にどう影響するか、そして専門医としてのキャリアにとってハンディキャップになるかどうかなど、時代によって変化する医療情勢まで考えると、現役医師ですら正確に予想することは難しい。つまり、この選択は難易度がかなり高い。
日本全体でこの地域枠制度が推進されており、現時点では医学部定員の6人に1人が〈地域枠〉で入学している。キャリアに関する不確実性を担保に入学した一部の医師にのみ地域偏在の問題をゆだねるべきではないことは当然で、政府も様々なパッケージを検討しているのは周知の通りである。ただ、〈地域枠〉に匹敵するインパクトにはやはり乏しい。
私も含めた既存の医師がどう貢献すべきか、また、そもそも地域偏在の根本原因となる診療科偏在の問題にどう取り組むべきか。さらには、一定期間の地域勤務をすべての医師に義務化するべきかなど、よりふみ込んだ議論を継続すべきであろう。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]