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【識者の眼】「米トランプ政権と医療界の混乱」榎木英介

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2025-06-12

最終更新日: 2025-06-10

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2025年1月20日(現地時間)、米国の大統領にドナルド・トランプ氏が就任して以来、米国のみならず、世界の医療界は激震に見舞われている。

就任当日にバイデン政権のDEI(多様性・公平性・包括性)プログラムを終了し、トランスジェンダー関連政策の見直し、WHO脱退を発表して以降、矢継ぎ早の改革が、医療界を大混乱に陥れている。

WHO脱退と並んで、USAID(米国国際開発庁)の大幅な縮小・解体も、世界の結核、HIV/AIDS、マラリアなどの感染症対策に大きな負の影響を与えている。

また、ワクチン懐疑派のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を保健福祉省長官に任命したのは大きかった。ケネディ・ジュニア長官は、公聴会でワクチンへの懐疑的な姿勢を否定したにもかかわらず、麻疹のアウトブレイクに対し、ワクチン以外の治療法を推奨するなど、その姿勢は改まっていない。次のパンデミックが発生した場合どうなるのか、不安は高まる。

本稿を脱稿する直前の2025年5月27日、ケネディ・ジュニア長官は、妊婦および健康な子どもへの新型コロナウイルスワクチンの定期接種推奨を中止すると公式に発表した。これは関係機関への相談なく行われたとされている。また、米国立衛生研究所(NIH)の職員など、政府科学者に対し、主要な医学雑誌(New England Journal of Medicine、Journal of the American Medical Association、The Lancetなど)が製薬業界と癒着しているとして、これら雑誌への論文投稿や発表を禁止する可能性を公に示唆した。

状況は日々変わっており、本稿が出たころどうなっているのかは見通せない部分もあるが、状況が好転する兆しは見えない。日本の医療界への影響も無視できないだろう。2025年5月12日に発表された「最恵国待遇の処方薬価格を米国の患者に提供する」大統領令は、薬価にも影響を与えると思われる。NIHの大規模縮小や、ハーバード大学の留学生禁止方針は、医学研究、研究留学等に少なからぬ影響を与えるだろう。

こうした中、我々はどうすればよいのだろうか。米国の動向を注視するのは重要だが、それにとらわれて右往左往してはいけない。情報を収集しつつ、最善の手段を講じていく必要がある。米国からの人材流出は日本にとってはチャンスでもある。

引き続き動向を注意深くウォッチしていきたい。

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[米トランプ政権][COVID-19

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