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シール固定液とは

No.4762 (2015年08月01日発行) P.70

土居原拓也 (愛媛大学医学部解剖学・発生学 技術専門職員)

松田正司 (愛媛大学医学部解剖学・発生学教授)

登録日: 2015-08-01

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

シール固定液とは具体的にどのようなものですか。 (兵庫県 K)

【A】

シール固定液は,1992年にオーストリアのW. Thielによって報告された,新たな解剖体固定法(シール法)に用いられる固定液です(文献1) 。この固定液の特徴は,ホルマリン含有量(3~6%)が従来のホルマリン固定液(8~10%)よりも低く抑えられていること,プロピレングリコール,亜硫酸ナトリウムといった食品添加物が含まれていることです(表1)(文献1~3)。
固定液の注入は,内臓保存液を上矢状静脈洞から,遺体灌流液を大腿動脈から注入する方法が一般的です。シール法により固定された解剖体は組織の柔軟性が保たれ,生体に近い物理的性質を有しています。また,既知の病原菌,ウイルスへの感染リスクも抑えられると言われています。そのため,本固定法で固定された遺体はサージカルトレーニングに適しており,近年では多くの大学でシール法の導入が進んでいます。
愛媛大学では,2012年度から実践的な手術手技向上研修事業を行っており,腹腔鏡手術や人工関節置換術,歯科インプラント術などの様々な手技研修において,シール固定遺体を使用しています。参加した臨床医からは,本来の術式に即したかたちで研修が行えるという点で,本固定法は非常に有用であるという高い評価を得ています。
しかしながら,他大学から「脳や内臓が融解する」などの指摘がありました。これは,現在一般的に行われている固定液全量を大腿動脈から注入する方法では脳や腹部内臓などの固定が不十分になる,ということによるものと考えられます。上述のように,もともとシール法では内臓保存液を上矢状静脈洞から注入しています。脳が融解するのは,シール固定液自体の問題ではなく,注入箇所により固定液の効果が弱くなるので十分な固定がされない組織ができてしまい,結果的に融解する,ということのようです。実際,愛媛大学では遺体灌流液を大腿動脈から注入した後に,頸動脈からさらに同固定液を灌流することで脳神経外科の手術手技向上研修を問題なく行っています(文献4)。

【文献】


1) Thiel W:Ann Anat. 1992;174(3):185-95.
2) Thiel W:Ann Anat. 2002;184(3):267-9.
3) 秋田恵一, 他:整形・災害外科. 金原出版株式会社. 2013;56(10):1285-9.
4) Doihara T, et al:J Physiol Sci. 2015;65(Suppl1):147.

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