(大阪府 K)
iPS細胞などの多能性幹細胞は,培養皿の上で私たちの体を構成する様々な細胞に分化することができます。それゆえ,分化させた細胞を移植して組織・臓器の機能を補ったり,薬の効能や毒性を調べたり,新薬のスクリーニングに使うことが期待されています1)2)。
しかし,目的とする細胞に分化誘導することは簡単ではなく,非常に手間暇のかかる作業であると同時に,体の中の本来の細胞と同じ細胞ができているかなど,まだまだ課題が多いところです。また,私たちの体を構成している細胞は,一般には200種類以上と言われていますが,その中でも,これまで多能性幹細胞から分化させることができたと報告された細胞種は,20種類程度にすぎません。
多能性幹細胞を目的とする組織細胞へ分化誘導する方法は,大きく3つにわけられますが,実際にはそれらを組み合わせることが多くあります。
1つ目は,様々な細胞増殖因子,細胞分化因子,また,小分子薬などの組み合わせが入っている細胞培養液を準備して,その中で多能性幹細胞を培養することにより,細胞の分化を誘導する方法です(方法1)。多くの場合,異なる培養液に次々に触れさせていくことで,細胞を順次分化させていきます。
2つ目は,多能性幹細胞の塊・集合体をつくらせることで,細胞塊の中で細胞同士が変化しつつ相互作用していくこと(自己組織化)によって様々な細胞に分化していくものです(方法2)。
3つ目は,転写調節因子と呼ばれる遺伝子が細胞の分化状態を決定していることを利用して,それらを多能性幹細胞の中で働かせることで,細胞分化を誘導します(方法3)。
方法1,2は,時間がかかりますが,方法3は直接細胞の分化状態を決定している転写調節因子を操作するので,迅速に分化が起こります。その際,転写調節因子をRNAの形で導入することで,遺伝子に傷をつけたり,遺伝子を改変したりすることもなく,安全に行うことができます。
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