本年7月15日、千葉大学研究活動の不正行為対策委員会は、バルサルタン試験の1つであるVART試験「Valsartan Amlodipine Randomized Trial」1)に関する最終報告書を発表した2)。その中では、公益財団法人先端医療振興財団臨床研究情報センター(TRI)が3月31日に報告した「Valsartan Amlodipine Randomized Trial精度検証調査」調査報告書3)の検証を行うとともに、その後の独自調査で、本試験の解析をバルサルタンを販売するノバルティスファーマ社の元社員に任せていたことを明らかにした。今回の報告書で評価できる点は、昨年12月の中間解析やTRIではなしえなかった解析を専門の統計学者を加えて追加統計解析報告書4)として発表することで、疑義がもたれていた意図的操作の有無についても検証したことである。
VART試験は、一次エンドポイントで両群に差はみられなかった。しかし、二次エンドポイントである左室心筋重量係数(LVMI)の変化量、血清ノルエピネフリン濃度の変化率、MIBG心筋シンチグラフィーによる心縦隔比の変化率、そして尿中アルブミン/クレアチニン比の変化率がバルサルタンで有意に改善していたと報告されている1)。
この点について追加統計解析報告書4)は、脱落例があまりにも多いことから、データ欠損に意図的操作がなかったかどうかを徹底的に検証し、その結果、ほぼ意図的脱落であろうと結論している。
解析方法は、36カ月時点でデータ脱落例と非脱落例に分け、脱落と前値との関係にバルサルタンに有利な傾向がなかったか、あるいは2回目と3回目との差にバルサルタンに有利な傾向がなかったかなど、さまざまな角度から検討している。委員会が「不正は絶対に許さない」という強い意図をもって解析したことが伝わってくる内容である。
VART試験の元データは一部を除いて大半が失われている。しかし、最終解析に用いられたデータをみれば意図的操作が存在したかどうかを統計的な不自然さをみることによって判定でき、本委員会はその方法を用いて検討している。各エンドポイント1つ1つでは統計的な有意差までは得られていないが、複数の二次エンドポイントのデータ脱落がいずれもバルサルタン有利に傾いていたことから、意図的操作が否定できないと結論づけたのである。
残り1,638文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する