今年は大雨、台風、地震と自然災害が多い年である。西日本豪雨災害の支援が続く中、9月4日に台風21号が襲来し、6日に北海道胆振東部地震が起き、さらに30日には台風24号が追い討ちをかけた。甚大な物的被害に加えてライフラインが寸断し、特に停電は市民生活に大きな影響を与えた。今回は、大型台風による大規模・長時間停電が在宅患者さんに与えた影響を振り返ってみたい。
私は23年前の1995年に阪神・淡路大震災を経験した。勤務していた市立芦屋病院はまさに野戦病院と化したが、外部の医療機関と連絡がついたのは24時間後であった。阪神・淡路大震災で得た数々の教訓は『震災が与えてくれた「町医者力」』(エピック)という本にまとめた。また7年前の東日本大震災では被災3県において支援活動を行った。その時感じた教訓は『共震ドクター』(ロハスメディア)という本や『無常素描』という記録映画に残した。
さて、今回の台風21号、24号は史上最大級の台風であった。台風21号による暴風被害は筆者の生活圏域である兵庫や大阪で大きく、低温火傷のように現在も続いている。
私のクリニックでは、台風が通過する9月4日は休診にして職員全員に自宅待機を命じた。前日に鉄道の運休が発表されたのでそれに連動した。普通の企業であれば自宅待機だけでいいが、医療職の宿命は自身も当事者でありながら人助けを優先しなければいけないことである。かといって、いくら職業倫理とはいえスタッフが災害に巻き込まれれば労働災害のリスクがある。だから災害時の管理者の判断や行動や指示は難しい。蛇足だが、私は電力会社や電力管理会社の産業医も長く務めているので、停電の復旧作業に不眠不休で携わった労働者の健康管理や長時間勤務の面接業務にも3回呼ばれた。
地震への備えと台風への備えは少し違う。地震は予測できないが、台風は予測できるからだ。危険な時間帯が高い精度で予測でき、リアルタイムで知ることができる。しかし実際には甚大な被害が出た。気象庁のHPによると台風21号の接近により大阪に出された高潮注意報が警報に変わるまでわずか10分間しかなかったという。
台風時には超短時間で潮位や風速の急激な変動がありうるのだと身をもって知った。「充分な備え」とは「たった10分間の状況変化」に対応した行動だと改めて教えられた。