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【識者の眼】「医師の応招義務(医師法19条)は絶対か?」川﨑 翔

No.5000 (2020年02月22日発行) P.33

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2020-02-23

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昨年12月25日、厚生労働省からある通知が出されました。タイトルは「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」。応招義務、つまり、患者を診察しないことが正当化される事例について、踏み込んだ記載がされています。

医師法第19条第1項では「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定されています。いわゆる「応招義務」の規定ですね。この規定が独り歩きして「医師は診察を拒むことができない」と誤解されることもありました。医療現場では悩みも多かったのではないでしょうか(迷惑行為を繰り返す患者と応招義務との関係についてご相談いただくことも多かったです)。

これまでの裁判例を踏まえ、応招義務が「医師が国に対して負担する公法上の義務」と明確に整理された点は重要です。つまり、医師が診療を拒否しても、直ちに患者との関係で損害賠償責任を負うわけではなく、診療を拒むことができる正当な事由があるかどうかが個別に判断されることになります。

今回の通知では「勤務医が医療機関の使用者から労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等を受けた場合に(中略)診療等の労務提供を拒否したとしても(中略)応招義務違反にはあたらない」と明言されており、国が近年問題となっている勤務医の過重労働への対策を急いでいる様子がうかがえます(逆に言えば、今後勤務医の労働環境について、労基署等からの規制が強くなる可能性もあるでしょう)。また、「訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応」について分析が加えられている点も画期的といえます。

そして、医療現場で最も関心があると思われる「患者の迷惑行為」と「医療費不払い」のケースについて、一定の方向性が示されています。具体的には「診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される」「支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される」と記載されました。ケースバイケースの対応を求められると思いますが、医療現場としては、自信をもって毅然とした対応をとることができる場面が増えるのではないでしょうか。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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