No.5000 (2020年02月22日発行) P.25
渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)
登録日: 2020-02-24
まず私の所属する関東中央病院から解説する。病院の位置する東京都世田谷区は約58km2に91万7000人、全国198区中人口1位。当院は1953年に公立学校組合の関東の直営病院として開設、93年2次救急病院、2012年地域医療支援病院で世田谷区最大470床の地域中核病院となっている。隣接区市には大学病院、医療センターが乱立しており、まさに群雄割拠とも言える状況だが、住民にとって医療の受けやすい恵まれた環境である。
さて、この地域で当院の上部消化管内視鏡止血件数(観察のみは除く)は2005年64件、2007年108件、2009年99件、2011年85件と2007年をピークに、以降は減少傾向を認めている(図)。当時の当院内視鏡上級医師は私1人であり、週3回時間外で上部止血に呼ばれる日が10年以上続いた。同時期2007年は「救急患者のたらい回し」の不適切表現報道があり、緊急内視鏡にも世間の厳しい目が向けられていた。病院が多い割には人口密度が高く専門内視鏡止血が毎日できる病院は限られている。この内視鏡止血を少なくするため上部内視鏡止血全体の7割は潰瘍出血であることに着目。2005年から消化性潰瘍予防のために内科では消化器・循環器・神経、外科では脳神経・整形・泌尿器などの医師に院内・院外地域講演を繰り返し行い、抗血栓療法や鎮痛剤における制酸剤併用やピロリ除菌の必要性を訴え続けた。
今となってはその効果が出たのかどうかも不明だが2008年から上部内視鏡止血件数は減少に転じ、2015年には41件となっている。明らかに世田谷区における上部消化管出血は減少しておりPPI、PCAB普及とピロリ除菌に効果があったと推測される。2008年に世論もコンビニ感覚での救急車要請禁止と我々の感覚に追随し、軽症者の救急車要請が一時的に減少。2009年には東京都は必ず患者を救急搬送できる「救急医療の東京ルール」を導入した。しかし最近、全国的に喉元過ぎたのか、再び軽症者・高齢者の救急要請増加が問題となり、緊急内視鏡の必要がない症例も多い。
【文献】
▶ 東京消防庁:見える化改革報告書『救急活動』2017年11月28日.
[https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/portal/data/all-a.pdf]
渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][上部消化管内視鏡止血①]