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【識者の眼】「病院経営を考える②:医療危機」飯田修平

飯田修平 (〔公財〕東京都医療保健協会医療の質向上研究所研究員、練馬総合病院質管理部部長・名誉院長)

登録日: 2025-08-22

最終更新日: 2025-08-13

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日本医師会・6病院団体合同声明「病院経営は破綻寸前 地域医療崩壊の危機」、九都県市首脳会議「病院の経営危機への対応について」が発表された。

「病院をはじめとする医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、さらには日進月歩する医療の技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、病院をはじめとした医療機関が地域からなくなってしまう」と声明に記載された。そして、「『高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という社会保障予算の目安対応の廃止」「診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」の2点を次回診療報酬改定に向けて要望した。

6病院団体の緊急調査では、「医業利益の赤字病院割合は69%まで増加」、全国公私病院連盟の病院運営実態分析調査では、「赤字病院数の割合は80.1%」、国立大学病院長会議の「令和6年度の収支決算(速報)」では、「国立大学病院の6割に当たる25病院が現金収支マイナスとなり42病院合計213億円の赤字」という結果であった。

普通の経営をすれば、収支は確保できるが、大学病院は経営を考えなくても、赤字でも大丈夫という認識・期待(?)があったのだろうか。

公私問わず経営危機は誰も疑わない。以前から、医療のあり方、診療報酬体系のあり方に問題があることは明白であった。筆者は、病院経営を担当して以来、警鐘を鳴らし、子どもたち世代の有能な医療参入希望者数の減少を危惧した。国民にも実態を周知する目的で、『病院とのつきあい方 患者の疑問にズバリ院長が答える』(東洋経済新報社)や、『病院早わかり読本』(医学書院)などを出版してきた。

国は、医療・介護費が高騰し国家財政が破綻するとして、医療費を下げ続けた。一方で、医療の質を上げろと言う。病院経営の実態を考慮せず、働き方改革として、一律の勤務時間の短縮、賃金を上昇せよと言う。制度の抜本的な改革をせず、経営危機の状況にある病院に言うことではない。改悪であろう。

公益性が高く、国民皆保険のもと、誰でも、どこでも、いつでも、最善の医療を受けることができる。医療の質を高めるには、それなりの資源を投入しなければならない。相応の費用が必要なことは自明の理である。誰が、どのように、費用(税、保険、自己負担)を負担するかは制度の根幹である。

批判だけではなく、医療者・病院経営者として、何をすべきか考えよう。

飯田修平(〔公財〕東京都医療保健協会医療の質向上研究所研究員、練馬総合病院質管理部部長・名誉院長)[病院経営][経営危機

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