No.5000 (2020年02月22日発行) P.17
佐藤敏信 (久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)
登録日: 2020-02-25
筆者は、1983年の3月に医学部を卒業し、直後に当時の厚生省に入省した。2014年の7月に退官したので、地方行政も含めて厚生行政には実に30年余関与した。退官後、しばらくして福岡県にある久留米大学に本務の場を移したが、その理由の半分は福岡県内に独居であった母親の介護だった。2008年に父が事故死したため、母は79歳から89歳まで自宅で独居であった。その後はサービス付き高齢者住宅にお世話になって今日に至り、91歳と6カ月である。
当初日本医事新報社からご依頼を受けた時には「読んでいただけるような題材はありません」とお断りするつもりだったのだが、ふと自分の厚生行政の中での経験と、この実体験とがどういう関係にあるのか書いてみたいという気になってきた。と言うのも、今年は介護保険制度創設から20年目。言わば節目の年と言える。一方で、厚生労働省は、地域包括ケアの説明にあるように、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう」にするのだと説明している。そこで住み慣れた地域での生活は本当に可能なのか。それも90歳を超えるような超高齢者で可能なのか。可能だとしてどういう条件が必要か。不可能となるのはどういう場合か等の視点から書き進めることとした。
先に結論を申し上げると、①介護保険制度が実に素晴らしい制度であるということ、②一方で、超高齢者においては在宅での生活・療養は容易ではなく、当然その介護も大変になるということ、③超高齢社会においては、生活習慣病はもちろんだが整形外科的疾患への対応が重要である─ということになるだろう。
それにしても、超高齢者の介護は大変である。次回以降、私の場合の費用、心労その他について考察を加えつつ述べることにする。
佐藤敏信(久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)[介護保険制度①]