先日、百日咳に感染した生後1カ月の赤ちゃんが亡くなられたという悲しいニュースがありました。2025年に入って、百日咳の感染が広まっており、4月20日までの感染者数は既に、2024年の合計感染者数を上回っています。
百日咳は、生後2カ月から定期予防接種として接種する5種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブ)で予防することができます。しかし、生涯免疫ではなく、4年程度で徐々に抗体が低下していきます。
また、生後2カ月未満の乳児は、まだワクチンを接種できないため、免疫をもっていません。大人が感染しても症状が軽いため、気づかないうちに乳児に感染させてしまうケースが多いと報告されています。百日咳菌の感染力は、麻疹と同等に非常に強く、百日咳に罹った人がワクチン未接種の同居家族に感染させる可能性は80〜90%とされています。
新生児〜乳児を百日咳から守るために、母親が妊娠中にワクチンを接種し、胎盤を通じて抗体を赤ちゃんに移行させる、という方法があります。
妊娠中の百日咳ワクチン接種により、生後3カ月未満の乳児において、百日咳感染を69〜91%予防、入院リスクを91〜94%低減、死亡リスクを最大95%下げることができます。
妊娠27〜36週の間に接種するのが最も効果的で、米国では、妊娠27〜36週の間に、3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の接種が推奨されています。不活化ワクチンなので妊娠中でも接種することができ、複数の大規模研究において、接種後の死産や早産、妊娠高血圧症候群などのリスク増加は認められず、安全性が確認されています。
日本では(百日咳の感染が大きく問題になることがなかったためか)、妊娠中の百日咳ワクチンの接種はこれまで広く推奨されてはいませんでしたが、3種混合ワクチンを妊娠中に接種することができます。接種可能な産婦人科が増えていますので、他科で患者さんから新生児の百日咳感染予防についてのご質問がありましたら、妊娠中のワクチン接種をご案内して頂けましたら幸いです。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科][百日咳][3種混合ワクチン]