No.5003 (2020年03月14日発行) P.57
勝田吉彰 (関西福祉大学社会福祉学研究科教授)
登録日: 2020-03-03
最終更新日: 2020-03-03
筆者は今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行開始早々から、地元テレビ局をはじめとしたテレビ出演や取材依頼に対応しながら、「エビデンスがない/ある」では片づけられない会話を多々経験した。「これは本当か?」と問われる場合もあれば、巷に流れるデマ特集の取材という形もある。
巷に広がる流言・噂の中には、明らかに事実ではない(けれど悪魔の証明は難しい)ものもSNSに存在し、「信じさせる力」を持つものもある。私は「妄想系」と「針小棒大系」に分けて説明している。いくつかの対応例とともに紹介する。
飛沫感染と飛沫核感染の違いを解説するが、「コロナとインフルは、ブクブクに着ぶくれした状態で悪さが出来ます。しかし(飛沫の衣がとれて)、裸になってしまうとシュンと大人しくなってしまうのです。対して素っ裸でも元気に悪さが出来るのが麻疹です」と着ぶくれの動作など織り交ぜると理解されやすいようである。そして、通勤電車の端から端ではなく、半径2〜3m以内が要注意と確認する。
なお、エアロゾル感染の実例では重症急性呼吸器症候群(SARS)流行中に発生した厦門ガーデン事件1)を引用する。これは、老朽化した集合住宅の下水配管のクラックから噴出し、同方向の部屋住民に糞口感染が広がったもので、当時、北京で外務省医務官の職にあった筆者も大いに緊張したものである(すわ空気感染がどんどん拡大するのか…という雰囲気だった)。しかしその後同様事例は報じられず、例外的なものと理解されていった。「下水管がヒビだらけで汚水が飛散するボロアパートに貴方はお住まいですか?」と問いかける。
これはSNSでかなり拡散しているそうである。他に56℃説もあると聞く。妄想系の最たるものだが、ここは「病気にかかったときに、発熱しますよね。あれはウイルスが生きにくい温度まで体温を上げてやっつけるのですよ。だから体温より低い温度でなくなることはあり得ません」と伝え、ついでに「では、何℃が良いかといえば、100℃です。100℃で5分煮沸します」と追加しても良い。
針小棒大系の流言・噂では、なかには例3のように、必ずしも害にはならないこともある。「ウイルスに対してこれひとつで完璧というものはありません。テストで80点の合格点をとるためには、こちらで5点、あちらで3点と積み上げていきますね。そうした、100点分の1点ぐらいな感じでしょうか」と前置きしつつ、例えば、窓を開けて布団を干すような行為は、部屋の換気など意味があるので継続していただくと良いだろう。
針小棒大系の流言・噂は、さまざまな「口から入れるもの」としても登場する。「エビデンスがない」で切って捨てるには少々もったいないものもあれば、有害なものもある。まずは、有害なものを見極めて明確に否定する。そして、前記の「80点の合格点をとるには1点の積み重ね」を話すとともに、「大金を積むと効果があるということは絶対にない」と釘をさす。“新型コロナに効果がある”などと謳う1錠1000円のサプリなどが登場することを心配している(あるいはひょっとして、すでに登場しているのであろうか…)。
一般社会にはマスクで予防「できる」「できない」両見解が入り乱れている。筆者が好んで紹介するのが、「外来における医療従事者のインフルエンザの感染予防効果において、サージカルマスクとN95マスクで有意差がなかった」とする米CDC・ジョンズホプキンズらの報告2)である。なぜか。「これは医療従事者というセッティングです。全員が正しく装着している前提なのです。でも貴方は鼻を出しておられますよね。その付け方ではこの知見に当てはまらないのです。まず鼻まで上げて、そして…」と、マスクの正しい付け方の話に持っていける点が利用価値である。
【文献】
1) Yu IT, et al:Clin Infect Dis. 2014;58(5):683-6.
[https://academic.oup.com/cid/article/58/5/683/365793]
2) Outpatient study finds masks, respirators equally protective
[http://www.cidrap.umn.edu/news-perspective/2019/09/outpatient-study-finds-masks-respirators-equally-protective]
勝田吉彰(関西福祉大学社会福祉学研究科教授)[新型コロナウイルス感染症]