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【識者の眼】「日本人の前立腺癌罹患・死亡リスクは低くない」伊藤一人

No.5011 (2020年05月09日発行) P.42

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

登録日: 2020-05-11

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PSA検診実施に批判的な意見の論拠で、前回(No.5007)紹介したようなマスコミ報道などで目にするのは以下が主なものです。①日本人の前立腺癌罹患・死亡リスクは欧米人と比較して低いので検診を含む対策の優先順位は低い、②米国の前立腺癌死亡率は低下しているが、罹患率の解離が大きく、過剰診断の不利益を被るリスクが大きい、③PSA検診の死亡率低下効果を検証した研究は、相反する結果が出ており、死亡率低下効果は証明されていない、④PSA検診は利益に比べて、不利益が非常に大きいため、対策型検診として推奨しない、⑤前立腺癌死亡時年齢は、約70%は75歳以上なので、検診を含む対策の優先順位は低い、⑥前立腺癌の相対生存率は非常に良好なので、症状が出てからの発見で十分間に合い、検診は不要。

新事実に基づき①〜⑥のPSA検診実施反対根拠に対する泌尿器科臨床医の反論を順に解説します。まず①の批判に対しては、最新の日米の罹患・死亡数比較が重要です。

米国では1990年前後からPSA検診が普及し、急激に罹患数が上昇しましたが、1997年をピークに徐々に自然な罹患数増加の基線に戻っています。PSA検診普及前後で前立腺癌の臨床病期分布が激変し、転移癌比率が23%から5%に低下しました。一方、日本の前立腺癌罹患数は増加傾向にあり、PSA検診受診率が低いため、転移癌比率は現在も17%前後と高い状態です。日米間の罹患数差は、1970年代、1990年代は23倍と非常に大きな開きがありましたが、その後差は縮まり、2018年は2.1倍しかありません。米国の死亡数は、PSA検診普及後の1994年以降は低下傾向が続いています。一方、日本の死亡数は増加傾向にあり、日米間の死亡数差は、1970年代は19倍、1990年代は7倍と大きな開きがありましたが、2018年は2.2倍に縮まりました。

日米の人口差は2.5倍あるので、現在の日本人の前立腺癌罹患・死亡リスクは低くありません。また、日本は発見癌に占める転移癌比率が高いため、転移癌罹患リスクは米国より高いことになります。

伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]

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