No.5011 (2020年05月09日発行) P.42
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2020-05-11
古い話で恐縮ですが、我々は1996年に京都市の小中学生3万人以上を対象とした大規模疫学調査を行ったことがあります。そこで得られた新しい知見の一つは「秋冬生まれの子どもは学童期にアトピー性皮膚炎の有症率が高い」というものでした1)。当時は、生直後に寒くて乾燥した季節を過ごすことが皮膚に何らかの影響を与えて皮膚バリアの低下につながるのではないかと推察しました。それから20年の歳月が経ち、2014年に生直後からの保湿剤塗布によるスキンケアでアトピー性皮膚炎の発症が30〜50%抑えられた、とのパイロットスタディの結果が日本とイギリスで相次いで発表されました2)3)。この報告が出た時には、我々の疫学調査と矛盾しない結果として納得したものでした。ところが2020年になってLancet誌で、数千人の乳児を対象とした大規模介入研究でその効果を否定する論文が北欧とイギリスから相次いで発表されました4)5)。そのうち一方の論文5)ではむしろ皮膚感染症のリスクを高めるとの結果が出て、保湿剤による介入は推奨すべきではないと述べられています。
なぜここまで相反する結果が出たのかわかりませんが、①保湿手技や保湿剤の種類による違い、②対象例の選択基準の違い、③アドヒアランスの違い、④観察期間の違い─などの可能性が考えられます。いずれにせよ、乳児期からの適切なスキンケア指導とはどのようなものか、改めて考えさせられます。現在別の介入研究が進行中だそうで、本テーマについてさらに議論が深まることが期待されます。
【文献】
1) Kusunoki T, et al:J Allergy Clin Immunol. 1999;103:1148-52.
2) Horimukai K, et al:J Allegy Clin Immunol. 2014;134:824-30.
3) Simpson EL, et al:J Allegy Clin Immunol. 2014;134:818-23.
4) Skjerven HO, et al:Lancet. 2020;395:951-61.
5) Chalmers JR, et al: Lancet. 2020;395:962-72.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[アトピー性皮膚炎]