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【識者の眼】「医療経済学:真の費用対効果を考える(総論)」三宅信昌

No.5011 (2020年05月09日発行) P.45

三宅信昌 (三宅整形外科医院院長、日本臨床整形外科学会副理事長)

登録日: 2020-05-12

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近年各分野の医療技術の進化に伴い、平均寿命は延伸しています。しかし医療費の真の費用対効果を考える際には、国民の生存年数だけでなく、いかに障害が少なく生きられたかを加味すべきです。すなわち健康寿命(世間で言う“ピンピンコロリ”)が重要視されます。

その指数としては、生涯調整生存年(disability-adjusted life year:DALY)があります。DALYは寿命ロス(years oflife lost:YLL)と健康ロス(years lived with disability:YLD)を合わせたもので、疾患の発症率と生存年にその罹患期間や障害の重症度によるQOL低下が合算されています。

世界各国の保健機構(health technology assessment:HTA)では、このDALYから国の疾病負担(burden of disease:BOD)を計算し医療政策に反映しています。一方日本の医療政策は、癌、心疾患、脳血管障害などの死亡統計に基づいて、YLLを中心に医療費配分される傾向がありますが、精神疾患(鬱病など)や筋骨格系疾患(骨粗鬆症や関節疾患など)によるDALYの低下から考慮すると、これらの疾患にも十分な医療費を掛ければ、最終的には日本のBODが下がると予想されます。

一般的には、費用対効果というと「医療費が安かろう、良かろう」という表現になっていますが、それは不正確です。ある医療行為に掛けた医療費がどのくらいで、その医療行為により患者さんの障害をいかに減少させたかを計算するのが、真の費用対効果分析です。さらに患者さんがある疾患に罹患した場合、どの程度の経済的損失が生じたかも費用対効果分析に含まれます。すなわち医療費をいかに患者さんの人生の幸福度を得るために使用したかを分析するものです。診療行為別にそのコストが算出されています。

日本の医療の将来を考える上でこれらの知識は重要であり、是非広報したく思います。次号からは、医療費の分類と解析、QALY(quality-adjusted life year)、ICER(incremental cost effective ratio)、WTP(willingness to pay)などの医療経済用語とその内容について解説致しますので、継続的にお読みいただくようお願い致します。

三宅信昌(三宅整形外科医院院長、日本臨床整形外科学会副理事長)[診療報酬点数]

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