No.5015 (2020年06月06日発行) P.60
浅香正博 (北海道医療大学学長)
登録日: 2020-05-16
最終更新日: 2020-05-15
現代の日本は食料が満ちあふれており、食べ過ぎによる栄養過多の人が増加してきたため、大きな問題となってきている。厚生労働省主導でメタボ健診まで行われるようになってきたが、よく考えてみるとわが国の歴史は大きな飢饉が定期的に襲ってきて、その都度、多くの人が飢餓のため命を落としていたのである。食料がふんだんに有り余っている時期より飢餓の時代の年数が圧倒的に長かった日本人は、飢餓に耐えられるようエネルギーを節約できる倹約遺伝子を持っている人が多くなってきたと考えられている。
厚労省は、2017年の集計で肥満者の割合は、男性31.3%、女性20.6%と発表しており、ここ10年間ほとんど変化が見られていない。ところが、2015年の経済協力開発機構(OECD)の調査ではわが国の肥満者の頻度は3.7%であり、世界で最低ランクになっているのである。この大きな乖離はなぜ生じたのであろうか?これはきわめて単純でわが国と他の国との肥満定義の差からきているのである。肥満の程度は身長と体重の割合を示すBMI(body mass index)で求められる。計算式は、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗〕である。世界各国ではBMI30以上を肥満と定義している。然るに、わが国ではBMIが25以上を肥満と定義しているのである。
なぜわが国の肥満の基準だけが異常なほど厳しいのであろうか。OECDのデータでは米国の肥満率が最も高く38.2%であり、わが国の約10倍であるのに、糖尿病の発生率はほとんど変わっていない。これは、米国人は日本人に比して約2倍のインスリンを分泌するため太っていても糖尿病になりにくいと説明されている。このように日本人は肥満に弱い民族ともいえるので、基準が厳しくなっていると考えられる。
しかし、近年行われた国立がん研究センターの35万人のデータを分析した大規模コホート研究によると、中高年の死亡リスクが最も低くなるBMIは21〜27と従来より高くなった。170cmの人では体重61kgから78kgまでが許容範囲ということになる。高齢者では標準体重より若干太り気味の人の方が長生きできるということであり、高齢者の無理なダイエットはむしろ有害かもしれない。ちなみに米国の場合、170cmで87kgを越えている人の割合が40%近くあるために肥満対策は必須なのである。
浅香正博(北海道医療大学学長)[肥満と健康]