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【識者の眼】「強姦者は許せないとしても…」中井祐一郎

No.5017 (2020年06月20日発行) P.66

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2020-05-25

最終更新日: 2020-05-25

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強姦罪は2017年の法改正により強制性交等罪となり、3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役となった。これは、執行猶予を付されることがなくなるという点も含め、厳罰化を意味する。また、旧法における男性器の女性器への一部挿入という成立要件から、肛門性交や口腔性交も対象とされた。更に、自己の膣内、肛門内もしくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為を含むとされたことから、女性も正犯となり得るようになったほか、親告罪から非親告罪となったことも話題となった。

性犯罪の被害者の立場からはこのような厳罰化は支持されるであろうが、被害者である女性を診察し、犯罪の成立を証明する立場の我々にとっては、悩ましいことは多々残っている。強制性交等致死傷罪が成立した場合には、法定刑が無期または6年以上の懲役であることから、裁判員制度の対象となる。したがって、被告人にとっては「致傷」の有無は大きな重みを持つが、これを診断することによって、被告人が受けるべき正当な処罰の決定に関わる立場の我々にとっても真摯な対応が求められる。

「姦淫行為に通常付随する傷害」をどのように捉えるかは、法学的には肯定説・否定説があるようだ。例として、「処女膜裂傷」や「乳房における接吻痕」が挙げられており、現状では「致傷」の成立を認めている判決があるという。しかし、強姦ならずとも性交による軽微な膣壁損傷による出血はまれではないし、出血が膣部びらんからであった場合にはどうなるのであろうか…?

もちろん、これは医師が決めることではなく、法廷が判断することである。しかし、証拠に基づいて法を適用し、適正な処罰を決定することが法治国家における正義であるとすれば、医師には診断の厳正性とともに、証拠能力を持つ記録が要求される。

しかし、若年の被害女性に僅かな性器出血を認めたとして、詳細な膣鏡診を行うことは、セカンド・レイプにならないだろうか…悩みは尽きない。

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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