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【識者の眼】「多文化共生と地域医療─在留外国人へのサービス向上が課題」小林利彦

No.5016 (2020年06月13日発行) P.64

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

登録日: 2020-05-28

最終更新日: 2020-05-28

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国籍や民族などの異なる人々が互いの文化的な違いを認め、対等な関係を築こうとしながら共に生きていくことを「多文化共生」と国は定義している。日本で暮らす在留外国人は2019年6月時点で283万人(日本の総人口の2.2%)とされ、その伸びが過去10年間で20%増となっていることを考えると、在留外国人と地域との良好な関係構築は極めて重要であると考える。その一方で、国が2030年時点で6000万人という目標を定めた訪日外国人は、これまでの5年間に3倍ほどのペースで増えていたものが、今回の新型コロナウイルス感染症の発生で大きなダメージを受けている。実際、2020年4月の訪日外国人数は前年度と比較して99.9%減となった。

そもそも、インバウンド消費による経済的効果を過度に期待してきた国策が大きな曲がり角に立っている気がする。2025年以降に就労者人口が大きく減少し多様な求人対応策が求められる日本において、短期的な観光客が主体となる訪日外国人よりも、地域において永住(生活)してくれる外国人向けの地域サービスを前向きに検討することの方が重要であると考える。実際には、在留外国人の多くが東京都(20.6%)や愛知県(9.6%)、大阪府(8.7%)、神奈川県(8.1%)、埼玉県(6.7%)などの都心部に集中している。地域では言語対応の困難性や生活習慣の違いなどから時に問題は生じているが、今回の感染症対策だけでなく、今後の大規模災害や日常の救急診療への対策検討などを地域レベルで行っていくことは急務である。

現在、国策として特定技能を有する在留資格者への規制緩和がなされているが、その種の施策とともに、在留外国人の子供達への教育支援や地域医療へのアクセス向上を目指した働きかけが重要になると考える。医療機関では得てして多言語対応や保険制度の未理解、未収金等の問題が取りざたされるが、グローバルな世界観のもと、日本に永住し将来的に就業および納税をしてくれる外国人への地域医療サービスの向上は積極的に検討されるべき問題である。

小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[地域医療]

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