No.5028 (2020年09月05日発行) P.65
奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)
登録日: 2020-08-18
最終更新日: 2020-08-18
前回の「接種前のリスク対応」(No.5024)に続き、今回は「発症時の初期対応」について述べる。
発症すると、持続的な痛みによる苦痛と倦怠感などにより日常生活が困難となり、また、保護者も様々な情報を見て動揺し、親として接種を勧めた責任を感じて、接種を後悔していることが多い。そこで医療がどのように対応するのか、それが社会的リスクとして、以後の経過に大きな影響を与える。
HPVワクチン接種との関係を疑って身体の疼痛や多様な症状を主訴に来院した場合、患者や家族の気持ちを理解し、「それは大変でしたね」と声をかけ、傾聴の態度(受容、共感)をもって接する。「それはワクチンとは関係ない、精神的なものだ」といった決めつけた対応はしない。
①面接・問診のポイント
・真摯かつ優しい態度で、患者自身の話を中心に情報を整理する
・実際に何に困っているか、一日の生活内容を、時間をたどって詳細に聞く
②診察のポイント
・全身を丁寧に診察し、本人と家族と診察所見を確認、共有する(間主観的アプローチ)
・症状の多様性、変動性、転動性(注意がそれると症状が軽減する)など、器質的疾患と矛盾する点には特に注意する
・婦人科など、専門性の高い症状については、その科に診察を依頼する
おおよその状態を把握してHPVワクチン後の多様な症状が疑われれば、地域ごとに設置された協力医療機関に紹介する。しばらく対症的に観察が可能と判断すれば、以下を参考に診療を進めることも可能である。患者・家族には、医療機関を転々とすることのないよう、次の医療機関に良好に引き継がれるまでは、責任を持って対応することを伝える。
③検査
・診断と除外診断のため、どんな疾患を疑い、どんな検査が必要かを十分に説明する
・緊急性のある疾患(炎症性、悪性など)については先に検査し、除外する
④診断
・懸念された器質的疾患が否定され、機能性身体症状の性質が認められれば、例えば慢性痛と診断し、HPVワクチン接種後の症状疑いとする
・現時点で原因はまだ明らかではないことを説明する。心因性という表現は個人の責任という印象を与えるので、本人や家族自らが特定の心理社会的要因を認める場合以外は避ける
⑤報告
・医薬品医療機器総合機構(PMDA)に「予防接種後副反応疑い報告書」を提出する
・必要に応じて教育機関、他の医療機関、自治体などへ協力を依頼する
奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]