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私はなぜイギリス式の社会的処方の制度化は困難と考えているか?[深層を読む・真相を解く(101)]

No.5028 (2020年09月05日発行) P.54

二木 立 (日本福祉大学名誉教授)

登録日: 2020-09-02

最終更新日: 2020-09-01

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前回の連載(100)(8月1日号:5023号)では、「骨太方針2020(原案)」に「社会的処方の制度化」の検討が盛り込まれたが、最終決定では削除されたことに注目し、以下のように述べました:私は、「患者の社会生活面での課題にも目を向け」ることには大賛成ですが、日本に、イギリスのNHS発祥で、人頭払い主体のGP主導の「社会的処方」を新たに導入するよりは、現在進められている地域包括ケア・地域共生社会づくりの取り組みで「多職種連携」を強める方が合理的・現実的と考えます。

本稿では、私がこう判断する理由・根拠を書きます。私が一番強調したいのは、疾病・健康の社会的要因、「健康の社会的決定要因(SDH)」(以下、疾病の社会的要因)の重視とイギリス発祥の社会的処方は直結できないことです。

社会的要因の重視には大賛成

私は疾病の社会的要因の重視に大賛成です。私は元リハビリテーション専門医ですが、「障害者の全人間的復権」(上田敏氏)を目標とするリハビリテーション医学では、伝統的に、障害の医学的側面だけでなく社会的側面も重視してきました。

2001年のWHO(世界保健機関)総会で採択された「ICF(国際生活機能分類)」の大きな特徴は、生活機能の評価に「環境因子」という観点を加えたことです。環境因子は「人々が生活し、人生を送っている物理的な環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子」と定義され、それの詳細なコーディングも示されました(『ICF 国際生活機能分類』中央法規, 2002, 169頁)。
そのため、最近、保健医療分野で世界的に疾病の社会的要因が重視されていることに意を強くし、それを主導する研究者に敬意を持っています。

ただし、社会的要因に対する取り組みは国によって異なり、「世界標準」はありません。以下、イギリスとアメリカと日本の実情を簡単に紹介します。

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