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【識者の眼】「死亡年齢の最頻値が90歳前後の今、『終末期』を考え直すべき」武久洋三

No.5032 (2020年10月03日発行) P.64

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2020-09-18

最終更新日: 2020-09-18

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長生きすることは、本人にとってはありがたいことであるが、社会にとってはお荷物的な発想がまかり通っていた。最近では、延命措置の拒否を含め、自らが望む人生の最終段階の医療・ケアについて話し合う「人生会議」「ACP」が提唱されており、それとなく高齢者に余分な医療をしない傾向がみられる。

しかし7月に報道された筋萎縮性側索硬化症(ALS)の51歳の女性に対する2人の医師の殺人行為には、大きな反論が寄せられている。「苦しいから殺してくれ」という難病患者本人からお金をもらい、同情するのではなく持論を正当化する極端な医師にはさすがに異論百出である。2020年6月に新しく日本医師会会長に就任された中川俊男会長は会見で、「患者さんから死なせてほしいと要請があったとしても、生命を終わらせる行為は医療ではない」「患者さんの苦痛に寄り添い、共に考えることが医師の役割」と述べ、ALS患者への嘱託殺人容疑で逮捕された医師を糾弾している。

また、2016年9月末に関東の公立病院に入院した93歳男性患者が49日後に栄養失調で餓死したことについて、家族が「入院先の病院が必要な栄養補給を怠ったために餓死した」として訴訟を起こしている。元気で正常なBMIであった男性が転倒して動けなくなり入院したものの、入院後、1日に必要な栄養量にはるかに満たない量しか与えられなかったため死亡したとしている。

日本医師会の「終末期医療のガイドライン2009」では、(広義の)終末期について「担当医を含む複数の医療関係者が、最善の医療を尽くしても、病状が進行性に悪化することを食い止められずに死期を迎える…」と示している。同ガイドラインは、2020年5月に「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」に改訂され、ACPの考え方が盛り込まれた。

誰が考えても、1日に必要な栄養や水分を投与することにより生きることができているのであれば、「終末期」でないことは当然である。1日に必要な栄養や水分を投与しないことはむしろ未必の故意の殺人という犯罪ではないかという議論も沸き起こっている。

高齢者の死亡年齢の最頻値が90歳前後に延伸している現在、改めて「終末期」そのものを考え直すべきではないか。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[終末期医療]

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