No.5039 (2020年11月21日発行) P.60
細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)
登録日: 2020-11-11
最終更新日: 2020-11-11
前回の識者の眼(No.5035)では、「地域連携の救世主」として、「訪問看護師の関わり力」を紹介させていただいた。今回は、失敗例を紹介させていただきたい。45歳男性2型糖尿病患者。両親とも糖尿病。28歳職域健診で高血糖を指摘され受診。栄養指導を行うも次回外来を受診せず中断。35歳HbA1c 11.7%で受診。入院はできないとのことで外来にてインスリン3回打ちを導入。9カ月後HbA1c 7.0%インスリン中止、メトホルミンのみで近医へ紹介。地域連携パスを渡し6カ月後の当院の予約を入れるも受診せず。42歳体重3kg減少で再受診。HbA1c 11.3%インスリン2回打ちを開始。通院を中断しないように別の近くの病院へ紹介。日本糖尿病協会作成の治療中断を防ぐための冊子「アナタの未来」(https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/enlightenment.pdf)を渡し、治療中断の恐ろしさを再度説明。43歳体重減少で来院。HbA1c 11.2%、なんと紹介した病院へは行っていなかった。インスリン強化療法を再開。再度「アナタの未来」を渡し、近くの病院へ受診を勧めた。44歳、6カ月後の予約日に受診するもHbA1c 10.5%、あまり近医へ行っていない、出張で広島にいることが多いと言う。そこで、広島の病院あてに紹介状を作成。再度「アナタの未来」を渡した。45歳、1年後の予約で受診。HbA1c 10.7%。たまにしか広島の病院にも行っていない、営業の仕事が忙しいと言う。今度は、土曜日も診療している糖尿病専門クリニックを紹介し、眼底出血、血液透析のリスク、通院継続の必要性を説明。再度「アナタの未来」を渡した。本人は「もらった気がする」と(小生、力抜け)。
今まで、地域連携で、治療中断を防ぐことができたケースは結構あった。クリニックの先生や看護師さんと相性が良かったり、土曜日や夕方受診が良かったりすることが多い。しかし、このケースでは連携がうまくいかない。治療中断例ですと紹介先にお願いするのだが、本人が行かない。営業の仕事をしており理解力はあると思っているのだが。「アナタの未来」も4冊渡している。行動経済学でいう「現状維持バイアス」(現状を変更する方がより望ましい場合でも、今までの生活や習慣を失うことを損失と考えてしまい現状維持を好む)になるのかと思う。今となっては、患者さんの思いを十分傾聴できていなかったと反省している。営業=多忙=中断と、決めつけていた。次回受診時こそ、このバイアスを取り払いたい。
細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[病診連携⑦]