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【識者の眼】「胃・十二指腸潰瘍の再発予防にピロリ菌除菌が有効であったことに驚く」浅香正博

No.5044 (2020年12月26日発行) P.65

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2020-12-09

最終更新日: 2020-12-09

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1987年にピロリ菌に出会い、最初に取りかかったのは胃・十二指腸潰瘍とピロリ菌の関わりであった。この当時、胃・十二指腸潰瘍の治療薬として画期的な酸分泌抑制薬のH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(PPI)が臨床に応用され、潰瘍の治癒率が飛躍的に向上して外科手術に回る症例が激減し、潰瘍を治すという点ではゴールが見えてきたように感じていた。しかし、治癒後の再発率は高く、維持療法と呼ばれるH2ブロッカー半量投与が行われていたが、それでも再発を抑制することは至難の業であった。わが国の胃・十二指腸潰瘍患者のピロリ菌陽性率は80〜90%ときわめて高く、除菌により再発が抑制されたという報告が海外より多く寄せられていたが、保険で認可されていないため除菌療法を積極的には行うことができなかった。この頃、私の外来を一人の十二指腸潰瘍の患者が受診した。PPIで治癒させても何度も再発を繰り返す方で、思いあまって手術の相談に来られたのである。ピロリ菌が生検標本で認められたため、PPIとアモキシシリンを2週間投与したところ、ピロリ菌は消失した。その後、維持療法を中止しても十二指腸潰瘍の再発はなく、2年が経過した。この方は大変喜ばれ、家族や親戚をどんどん紹介してくれたが、大半は胃・十二指腸潰瘍ではなく糖尿病や心臓病の方々であった。

このようにピロリ菌除菌が成功した患者には維持療法なしに潰瘍の再発が見られなくなったという事実はとてつもなく重く、それからは自分の患者に保険は使えないが、除菌療法を行うようになった。世界の動きはさらに早く、既に1994年にはNIH(米国国立衛生研究所)コンセンサスミーティングで、胃・十二指腸潰瘍は初発であれ、再発であれ酸分泌抑制薬に加えてピロリ菌除菌のための抗生剤を投与すべきであると見解が出され、わが国を除くほとんどの国で除菌療法が行われていた。わが国は医療保険の縛りがあるため、臨床治験を行わなければ保険の適応にならなかったのである。わが国の優れた皆保険制度が逆に邪魔をして保険がいつ適用されるかわからない状態であった。米国のGraham教授から、“21世紀には日本を除いて世界から胃・十二指腸潰瘍がなくなっているだろうから、この病気を見るために日本へのツアーが企画されるかもしれない”と揶揄されたりしたのである。

浅香正博(北海道医療大学学長)[除菌療法]

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