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【識者の眼】「新型コロナウイルス間質性肺炎になぜステロイドが効くのか」高橋公太

No.5055 (2021年03月13日発行) P.65

高橋公太 (新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)

登録日: 2021-02-19

最終更新日: 2021-02-19

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本欄で2回にわたって新型コロナウイルス感染症について述べてきた。今回は表題の問題について考えてみたい。

この感染症の流行早期から副腎皮質ステロイド薬やそのパルス療法が有効であることが報告され、わが国でもデキサメタゾン(デカドロン)が保険適用になっている。

ステロイド・パルス療法の意義について説明する。パルス療法は、腎移植の黎明期から今日に至るまで一貫して急性拒絶反応(AR)の第1の治療として君臨している。このパルス療法が免疫介在性炎症性疾患である間質性肺炎(IP)の有力な治療手段と考える根拠を2つ挙げる。

第1番目として、ウイルス感染症を契機に免疫担当細胞が感染した自己臓器(肺)を攻撃して発症するIPと、腎移植において免疫担当細胞が同種移植片(腎)に障害を与えるARの病態は、類似したある種の免疫炎症性反応である。

ステロイドがウイルスの増殖を助長するのではないかという懸念があるが、患者のウイルス量は感染症発症時に一番多いことが報告されており、免疫担当細胞の働きによりIP発症時には減少しているので、パルス療法の適応の妨げにはならない。

また、腎移植患者の中にはサイトメガロウイルス(CMV)感染症を契機に、同一時期にIPとARを合併した症例がある。これは偶然に合併したのではなく、CMV感染症を契機に細胞のclassⅠ抗原やclassⅡ抗原の発現が増強され、T細胞の反応を刺激する。さらにclassⅠ抗原はCMVのレセプターとして作用し、細胞のCMV感受性を高める結果、IPとARを引き起こす。肺と移植腎の組織には同様な細胞が浸潤しているので、免疫抑制や抗炎症効果のある本剤は有効である。骨髄移植においても以前からCMV・IPとGVHD(移植片対宿主病)が同時に発症する例が報告されている。

第2の根拠、特にパルス療法を推奨する理由は、IPにおいて肺組織を攻撃する免疫担当細胞はARと同様に、未熟な細胞から成熟した細胞までその種類や分化過程が様々であるためだ。未熟な細胞は低用量のステロイドでも抑制されるが、成熟した細胞を抑制するためにはある程度の高用量のステロイドが必要となる。

パルス療法には従来からメチルプレドニゾロン(ソル・メドロール)が使用されてきた。数日間の短期決戦後、漸減せずに経過をみる。それでも効果がみられない場合は数回実施する。ただし、それ以上投与すると全身の組織にコルチコステロイド受容体があるために、様々な副作用や有害事象が発生するので、本剤の適応と投与には慎重な配慮が必要である。

【参考文献】

▶高橋公太:日本医事新報. 2021;5050:72.

▶高橋公太:日本医事新. 2021;5053:54.

▶高橋公太:腎と透析. 2020;89:735-43.

▶高橋公太:腎と透析. 2021;90:289-301.

▶高橋公太, 編:臓器移植におけるサイトメガロウイルス感染症. 日本医学館, 1997.

▶Grundy JF. et al:Lancet. 1987;2:996-9.

▶南嶋洋一:臨床とウイルス. 1990;18:30-4.

▶To KK, et al:Lancet Infect Dis. 2020;20:565-74.

高橋公太(新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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