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【識者の眼】「高齢者糖尿病における認知・生活機能評価の重要性」小川純人

No.5070 (2021年06月26日発行) P.62

小川純人 (東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)

登録日: 2021-06-07

最終更新日: 2021-06-07

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高齢社会を迎えたわが国において、高齢糖尿病患者数は増加してきており、糖尿病もしくはその予備群の状態にある患者数は2000万人以上に及ぶ。高齢糖尿病患者では、ADL低下に代表される身体機能低下や認知機能低下、種々の老年症候群を伴いやすく、糖尿病薬物治療に対するアドヒアランスの低下も認めやすいことが知られており、さらには無自覚性・遷延性の低血糖や重症低血糖を起こしやすいとされる。

こうした点を踏まえ、2016年に日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が発表され、最近発刊された「高齢者糖尿病治療ガイド2021」にも詳しく記載されている。同目標では、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制だけでなく、認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に治療目標を設定することが示されている。実際的には、高齢糖尿病患者を身体機能と認知機能などに基づき3つのカテゴリーに分類し、年齢や治療薬剤を考慮した上で血糖コントロール目標値やHbA1cの下限値が設定されている。

カテゴリー分類を行う際の基準の一つとして、「地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)」の短縮版である「認知・生活機能質問票(DASC-8)」が、数分で実施可能な検査で、簡便かつ感度・特異度にも優れた指標として活用されてきている。DASC-8は、主に介護者などからの聞き取りによって評価する(もしくは本人の様子観察や追加質問とともに行う)質問票であり、各質問に対して障害の程度を1〜4点に評価した上で合計点を算出する。DASC-8合計点(32点満点)中、10点以下でカテゴリーⅠ、11〜16点でカテゴリーⅡ、17点以上でカテゴリーⅢの可能性が高いと判定する。

このように、高齢者糖尿病の治療に際しては、DASC-8等の活用によるカテゴリー分類を行うとともに、定期的に身体機能や認知機能を含めた総合的機能評価を行うことが重要であり、ひいては年齢、罹病期間、低血糖リスク、臓器障害、サポート体制、介護負担などを考慮した、全人的・包括的な糖尿病治療やケアの推進が期待される。

小川純人(東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)[老年医学]

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