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【識者の眼】「感染対策の基本を知らない日本政府」渡辺晋一

No.5081 (2021年09月11日発行) P.55

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2021-08-25

最終更新日: 2021-08-25

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新型コロナ感染爆発で、日本各地で医療崩壊を招いている。この機に至っても、政府は緊急事態宣言の発出だけで、実現可能な感染対策をほとんどしない。人流を50%減らすというが、人流を増やすオリパラをしている時に、この言葉は国民に届かない。

何しろ日本の検疫はあまりにもお粗末で、五輪関係者から南米のラムダ株が見つかったが、2週間以上もそれを隠蔽した。また国内に新規の感染症が持ち込まれた場合は、①感染者の発見、②隔離、③治療が基本であるが、日本では①の感染者の発見に必要なPCR検査を絞り、誰でもいつでも無料で検査を受けられる先進国とはほど遠い。また、②の隔離は不十分だ。無症状感染者は野放し状態で、軽症者は自宅療養のため家庭内感染が増える。さらに病床逼迫という理由で③の入院治療も制限されている。自宅療養と言っても、保健所の観察なので、自宅待機に近い。何しろ30年前から政府は保健所の数を半減させたため、今では、患者は保健所との連絡も十分でないという。自宅待機者が増え、医療が受けられなければ、死亡者が激増する。つまり日本は近代国家ではありえない悪夢のような状況となりつつある。どんな病気でも早期発見、早期治療が原則で、早い段階で医療が介入すれば、死亡者は減る。結局日本は今もPCR検査を絞り、医療の介入を遅らせた1年半前と変わらない。

海外では、病床が足りなければ、野戦病院のような宿泊施設を作り、多くの患者の療養を行っている。その方が少ない医師や看護師で多くの患者を観察できるからである。災害の場合は避難所を速やかに作るのに、何故日本では野戦病院を作れないのか。海外のデルタ株の感染状況を見れば、日本でも感染爆発することは想像できたはずである。このような状況にも関わらず、政府は今やることはないと国会を閉じ、ロックダウンなどの議論が出来ないようにしている。その一方で、政権の浮揚目的で、五輪を開催した。

さらに官邸は政治的信条が近い評論家の意見と同じようなこと、例えば①医療を守るために中等症以下の患者の入院制限、②(感染者が増えれば重症者・死亡者も増えるにもかかわらず)高齢者のワクチン接種で重症者・死亡者が減る、③ロックダウンは感染対策の決め手にならない─など医学的根拠がないことを平気で言う。私は1年半前から日本の感染対策の問題点を繰り返し述べてきたが、全然改善されない。このままだと私は反日的と非難されるので、次回からは日本の医療の問題点を述べることにする。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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