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【識者の眼】「新たな医薬品産業ビジョン─医薬安全保障のためにより具体的な薬価政策の議論を」坂巻弘之

No.5089 (2021年11月06日発行) P.59

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2021-10-26

最終更新日: 2021-10-26

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2021年9月13日に厚生労働省が公表した「医薬品産業ビジョン2021(以下、新ビジョン)」の主要4テーマは「革新的創薬」「ジェネリック医薬品」「医薬品流通」そして「経済安全保障(医薬安全保障)」である。これら4テーマは独立したものではなく、経済安全保障とともに薬価制度も核として、互いに関係しあっている。

透明性・予見性が保証される薬価制度は革新的新薬創出の必要条件であり、イノベーションの適切な評価が求められる。イノベーション評価により高額な薬価となることの半面、医療費をコントロールするためには、ジェネリック医薬品の使用促進が必須である。ジェネリック医薬品については品質問題とサプライチェーンの脆弱性による供給不足が問題となっているが、安定確保のためのコストやそれを補填する薬価のあり方も論点である。市場競争にさらされる特許切れ市場では、薬価逓減によって薬価に対して製造原価が相対的に高まる。その結果、安価な原薬、製造原料供給を特定国・地域に過度に依存したり、アンプルなどの資材製造から撤退したりする企業も増えつつあり、安全保障上の課題に繋がっている。一方、薬価引き下げは企業収益の予測可能性や安定供給のリスク要因にもなりうる。しかし、わが国の薬価改定は市場実勢価に基づくものであり、なぜ行き過ぎた価格競争が生ずるのか、流通改善の議論を切り離すことはできない。

これら関連する課題を俯瞰的にみて新薬ならびにジェネリック医薬品の薬価算定と改定のあり方を検討していくことが必要となる。そのためにはイノベーション評価と研究開発、製造、流通に関わるコストの分析をより厳密に行うとともに、両者のバランスに配慮することが必要である。薬価に反映すべきイノベーションの範囲や方法を明確にすることが重要であるが、新薬の薬価算定時に加え、収載後にもコストについての検討が必要と思われる。技術革新による製造原価の低下、安定確保のための製造・流通コストなどの分析も求められる。いずれにしても、医薬品産業政策の中で、イノベーション評価とコスト分析についてより透明性の高い議論が求められる。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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