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【識者の眼】「PCR検査陰性証明書が無効で飛行機に乗れず、滞在ビザが切れたウズベキスタン人」南谷かおり

No.5096 (2021年12月25日発行) P.61

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2021-12-08

最終更新日: 2021-12-08

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コロナ禍で渡航前のPCR検査が必須な時期に、当院かかりつけのアフガニスタン人患者が突然空港から連絡してきた。同僚のウズベキスタン人が提出したPCR検査陰性証明書の発行元がウズベキスタン政府の指定する検査機関でなかったため、帰国便への搭乗を断られたそうだ。当日搭乗できないと翌日には5年の滞在ビザが切れ、更新には東京に出向いて航空券も新規購入となるため、急ぎで検査できないかと聞いてきた。

証明書の要件は渡航先の規定や感染状況でよく変わり、わかりにくい。受入側は偽造や不正に得た陰性証明での入国を厳しく取り締まっているのだろうが、調べると同様のケースが問題化していた。渡航者の確認不足だが、個人で調べても情報が流動的で非常にまぎらわしい。実際、筆者もブラジルに渡航する際に某航空会社のチェックインカウンターで、帰国時にはPCR法でなくLAMP法でなければならないと、事実とは異なる情報を日本人スタッフから告げられた。厚生労働省の「出国前検査証明」フォーマットのサンプルで、LAMP法に赤でチェックしてあるのを勘違いしたと思われるが、聞き返しても断言したので信じそうになった。ブラジルではPCR法なら空港や病院で検査してもらえるが、LAMP法は薬局まかせで既定の証明書の発行は難しいため、鵜呑みにしていれば予定の便を逃していたかも知れない。

当院は国に4カ所しかない特定感染症指定病院で、COVID-19の治療に必要なPCR検査はしているが、スクリーニング検査や陰性証明の発行は行っていないため、国のTeCOT「海外渡航者新型コロナウイルス検査センター(Testing Center for Overseas Travelers)」には登録していない。冒頭の件は当院のコーディネーターが患者に代わって航空会社や入国管理局と日本語でやり取りし、それを日常会話レベルの英語しか話せないアフガニスタン人に伝え、本人が教えたペルシア語でウズベキスタン人にリレー通訳した。最終的には近隣の認定クリニックでPCR検査を予約し、数日後に出国する約束で上京も免除された。しかし、今回のビザの期限切れで1年間、もし出国しなければ5年間は日本に再入国不可と言われ、すぐに戻るはずが大番狂わせとなってしまった。

今回の件は当院にとってメリットはなく本来医療機関の業務でもないが、空港で対処できず助けを求めて来院したため介入した。日本のさらなるグローバル化に期待したい。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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