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【識者の眼】「漢方薬の効果を発揮させるための方法(1)─生活習慣の見直しの重要性」並木隆雄

No.5095 (2021年12月18日発行) P.61

並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)

登録日: 2021-12-09

最終更新日: 2021-12-09

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本ではだいぶ収まってきているので、当方が本来の担当として書くべき専門内容である漢方薬の効果を発揮させるために、日頃から外来で注意していることを書きたいと思います。

COVID-19の話題から離れないで恐縮ですが、最近は、いわゆるその後遺症の方が、当方の大学病院感染症内科での漢方診療特殊外来(当院での名称は「コロナフォローアップ漢方外来」)1)に多くいらっしゃいます。現代薬の後遺症治療は現時点では手探りですので、漢方薬は「後遺症治療」の1つの選択肢であります。

当院での初期の症例に関する報告2)では、当院受診者の後遺症の症状の数は多く、また多彩なのが特徴です。主訴で多いのは、倦怠感、味覚・嗅覚障害で、主訴以外の愁訴の数は数種類から多いと10以上を訴えられておりました。これでは、西洋医学では収拾がつかないかもしれません。漢方医学では愁訴はすべて漢方薬を決める(証を決める)ための有益な情報となるため、「不定愁訴」という考えはありませんので、症状の数は問題ではありません。また、当科外来にいらした方の多くが、漢方薬によって、主訴またはそれ以外の症状を含めれば、4〜5週以内に症状改善効果が出はじめました。この効果の速さは、ある程度、病悩期間と病気の重症度によって決まると思っています。人によっては数カ月悩まれている方もおりましたが、自然経過で症状が遷延している方は、早めに漢方薬を開始するのも一考かと思います。

後遺症の方の背景因子では、感染前に仕事の多忙や交代勤務で疲労がたまっている方が多く(56%)、疲労は、COVID-19の発症や後遺症の発生に影響がある可能性があります(今後の大規模な検討が必要)。

また、漢方的な問診で特筆すべきは、感染前から冷飲食過多の方が多いことでした(78%)。象徴的な例を挙げますと、味覚嗅覚障害が半年以上治らない高校生は、感染前から氷を山盛り食べている習慣があり、当科外来受診後それをやめてもらいました。その上で漢方薬を開始したら、1カ月後には味覚嗅覚障害が改善しはじめました。

漢方薬の効果は食事習慣などの影響を受けやすく、特に冷飲食(多量の果物・生野菜・そのスムージーなどを含む)は吸収に影響するため、効果の有無が確認できるまではやめてもらっています。現代薬ならそれほど影響の少ない食事習慣も、漢方薬の効果に影響するので、難治性の方はこの点を注意する必要があります。

【文献】

1)千葉大学医学部附属病院感染症内科ホームページ.

   [http://www.ho.chiba-u.ac.jp/hosp/section/kansen/index.html]   

2)並木隆雄, 他:COVID-19後遺症に対する漢方専門外来の初期患者の検討─当院の感染症内科特殊外来の来院の傾向について. 日本東洋医学雑誌投稿中.

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方][コロナ後遺症]

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